ローコード開発(LowCode)とは、最小限のソースコードの記述でシステム開発が行える開発手法です。ローコード開発は、開発期間・開発コストを大幅に抑えられるため、近年ではスタートアップから大手企業までさまざまな企業が導入しています。
しかし、ローコード開発には具体的にどのようなメリットがあるのか、導入するには何をしたらよいかわからない方も多いでしょう。本記事では、ローコード開発の基本から、企業の活用メリット、ローコード開発に役立つツールまでわかりやすく解説します。
この記事をご覧いただくことで、ローコード開発について基本は理解できますので、ローコード開発に興味のある方はぜひご覧ください。
ローコード開発とは
ローコード開発とは、最小限のソースコード記述だけで、システム開発やアプリケーション開発を行える開発手法のことです。
基本的な操作は、ローコードツールの専用画面上で行います。ローコードツールには、あらかじめ機能パーツが用意されていますので、それらをドラッグ&ドロップで組み合わせることでシステム開発が可能です。
また、必要に応じてコーディングを行えるため、自社仕様に調整したり、外部サービスとの連携も可能です。
ローコード開発が注目される背景
近年、ローコード開発が注目を集めており、IT企業から他業界まで幅広い業界・業種で導入が進んでいます。なぜローコード開発が注目されているのか、その理由を2つ解説します。
IT人材が不足しているため
世界的なIT人材不足は大きな問題となっていますが、とりわけ日本では慢性的な人材不足が続いています。
政府が公表しているIT系人材の推移予想によれば、2030年には最大79万人のIT人材が不足するといわれています。
大企業においても十分な数のエンジニアを確保することが難しい状況であり、人材確保ができず、システム開発が停滞している企業も見受けられます。
こうした人手不足の現状から、コーディング業務そのものを省力化・効率化するために、ローコード開発を導入する企業が増えています。
企業DXの推進のため
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、レガシーシステム(老朽化した古いシステム)を2025年までに刷新しなければ、年間最大12兆円の経済損失が発生する可能性があると指摘しています。
参照:DXレポート|経済産業省
この「2025年の崖」と呼ばれる課題に対し、政府や大手企業を中心に、IT化が進んでいます。しかしながら、IT人材不足でリソースを割くことができず、システム化に遅れをとっている企業は少なくありません。
クラウドサービスなどパッケージ化された製品・サービスも登場していますが、セキュリティ観点や自社仕様に調整が難しい点から、自社開発にこだわる企業もあります。
そこで、非エンジニア人材でも自社仕様のシステム開発できる手法として、ローコード開発が注目されています。
ローコード開発の流れと他の開発手法の違いとは
ローコード開発は、ノーコード開発と混同されることも少なくありません。また、従来のソースコード記述によるシステム開発とはどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、ローコード開発と他の開発手法の違いをそれぞれ解説します。
ローコード開発の基本的な流れ
ローコード開発の流れは、ローコード開発ツールにアクセスし、Webブラウザ上に表示された開発画面の中で、機能パーツ同士を組み合わせながらWebアプリケーションを構築していきます。わかりやすく例えるならば、レゴブロックで車や家を作るようなイメージです。
プログラミング言語を用いたコーディングは機能同士を連携させる際にのみ行うため、基本的にはGUIによる直感的な操作で開発を行います。
ノーコード開発との違い
ローコード開発とノーコード開発違いは、「コーディングが必要か不要か」といった点が挙げられます。
ノーコード開発は、コーディングを一切することなく画面上のドラッグ&ドロップ操作でシステム開発が可能です。シンプルな機能のアプリ開発の場合はノーコードで十分なことが多いです。
一方ローコード開発は、基本的には機能パーツのドラッグ&ドロップ操作で開発ができますが、機能の追加や拡張をする際に、必要最小限のコーディングを行います。
そのため、ノーコードに比べて自社の仕様にあった調整や機能実装が可能になるため、柔軟性の高いシステムの開発が可能です。
従来のシステム開発との違い
従来のシステム開発は、エンジニアによるコーディング作業が必要不可欠であるため、プログラミング言語の習得が必要です。また、開発・テスト・本番リリースまで、すべてをエンジニアの手で行う必要があるため、開発期間が長期化しやすく、それに伴い開発コストも増加します。
一方ローコード開発の場合は、コーディングスキルを持たない非エンジニア人材でも、ある程度までなら開発できるため、社内にエンジニアが在籍していない場合や、リソースが不足している場合に有効です。
また、ソースコード記述が最小限で済むため、開発期間の短縮および開発コストの抑制にもつながります。近年ではシステム開発を手掛ける会社でも、プロトタイプ(試作品)をローコードツールで開発するなど、開発プロセスで使い分けされるケースも増えています。
ローコード開発のメリット4つ
ここではローコード開発のメリットを4つ紹介します。ローコード開発の導入を検討中の方は、念頭におくと良いでしょう。
開発コストを最小限に抑えられる
システム開発に掛かるコストは、「投下するエンジニアのリソース」と「開発期間」によって大きく左右されます。
ローコード開発であれば、システムの大部分をエンジニア以外の人材が構築し、コーディングが必要な箇所だけにエンジニアに対応してもらうことで、全体の開発コストを最小限に抑えることが可能です。
システムを開発するための必要機能はあらかじめ用意されているため、開発環境をイチから構築する手間も掛かりません。結果として、開発期間を大幅に圧縮できます。
固有の業務ルールに柔軟に対応できる
ローコード開発は基本機能に加え、独自機能をコーディングによって追加できるため、より拡張性の高いシステムを構築できます。
ノーコード開発の場合は、コーディングを必要としない一方、提供されている機能の中でしかシステムを構築できません。使いたい機能が提供されていない場合は、他のツールで作り直す必要性も生じます。
一方ローコード開発は、独自機能が必要な場合にはコーディングによって後から自由に機能追加できるので、機能拡張に制限がありません。
例えば、社内で使う業務アプリを開発したい場合、大部分のシステムはノーコードで開発し、複雑なワークフローの構築が必要な箇所や、既存システムとの連携などを行う際に必要最小限にコーディングを行うと良いでしょう。
このように、開発の目的や用途にあわせて柔軟に対応できるのがローコード開発のメリットです。
運用・保守の負担が少ない
ローコード開発を用いた場合は、通常であれば情報システム部が行うような保守・運用業務に掛かる負担を軽減できます。
ローコード開発におけるインフラ環境の運用・保守作業は、サービスを提供するベンダーによって行われます。そのため自分たちでシステムのメンテナンスやアップデート作業を行う必要はありません。
情報システム部は、新しく開発するシステムの保守・運用に時間を割く必要がなくなりますし、情報システム部がない中堅・中小企業の場合でもIT人材がいなくてもシステム運用が可能になります。
とりわけシステム開発後の運用・保守フェーズは手間が多く、業務負担も少なくありませんが、ローコード開発を導入することで企業は運用・保守業務をすることなく、他の業務に専念できます。
非エンジニアでも一定レベルまで開発できる
ローコード開発は、従来の開発に比べてコーディング作業が少ないため、一定のスキルを持つ方であれば、非エンジニアでも開発できます。
そのため、部署内で人的リソースが足りず、業務の自動化を進めたいと考えた場合に、システム開発部門や外部のシステム会社を頼らずとも、自分たちで業務アプリを構築することが可能です。
実際に業務アプリを開発し、年間数百時間もの業務時間の削減に至ったという事例は、枚挙にいとまがありません。
ローコード開発のデメリットとは
ローコード開発はメリットばかりではありません。場合によっては、従来の開発手法を取り入れた方が良いケースもあります。また、ローコード開発を導入後に想定外のトラブルに見舞われることもあります。
ここでは、ローコード開発を行う前に考慮すべき主なデメリットを3つ解説します
実装機能が制限される
ローコード開発は、あらかじめ用意された機能パーツを組み合わせて構築する手法のため、細かな調整や完全オリジナルの開発には向きません。
複雑な処理や特別な機能を設置したい場合は、ローコード開発では対応しきれない場合があります。完全自社仕様のシステムを開発したい場合は、従来のコーディングによる開発が最適です。
セキュリティ対策がプラットフォーム依存になる
ローコード開発では、開発環境を構築する必要がありませんが、逆にいえばローコード開発ツールに依存する形になります。わかりやすく例えるならば、ローコード開発は賃貸物件です。保守管理はすべて管理会社(サービス提供者)が行ってくれますが、開発側は自由に設計できません。
もし自社のセキュリティポリシーに合わない場合や、自社サーバーにシステムを構築したい場合は、ローコード開発は適していませんので注意しましょう。
システムがブラックボックス化するリスクがある
ローコード開発は、現場担当者でもかんたんにアプリを開発できるがゆえに、社内の知らないところで業務アプリが開発される可能性があります。その結果、管理が行き届かなくなったり、開発者が異動や退職によってブラックボックス化するリスクがあることも注意しましょう。
ローコード開発ツールを導入する際は、社内ルールを整備し、システムが乱立しないように適切に管理することが必要です。
ローコード開発の活用事例とは
ローコード開発は、業界・業種問わずあらゆる企業で活用が進んでいます。とりわけ「2025年の壁」まで残りわずかとなっている中で、レガシーシステムの刷新などに注目されています。
ここでは、ローコ―ド開発の活用事例として2つ紹介します。
工場の現場担当者が自ら業務改善アプリを開発
国内大手消費財メーカーの「花王」では、工場勤務の現場担当者がみずからローコード開発ツールの「Power Apps」でアプリケーションを開発し、業務効率化に成功しました。
衣料用洗剤や住宅用洗剤を製造する和歌山工場では、製造現場で働く現場社員(4名)がわずか3週間で原材料を管理するスマホアプリを開発。年間の作業時間を約480時間短縮することに成功しました。
全国10工場で合計263個ものアプリケーションを開発し、工数の削減や危険物管理の効率化に成功しています。
参照:https://it.impress.co.jp/articles/-/23934
複雑な稟議承認プロセスをシステム化し業務生産性が向上
家具・産業用機器の製造を手掛ける国内大手メーカーの「オカムラ」では、ローコード開発ツールの「WebPerformer」を活用して、稟議承認プロセスの最適化とシステム化を実現しました。
従来の稟議承認プロセスでは、稟議種類・金額・起案部門などの条件によって、承認経路が複雑化し、承認が降りるまでに膨大な時間と労力が掛かっていました。
WebPerformerによりワークフローを構築し、プロセスの電子化を実現したことで、稟議の起案から決裁にいたるまでの時間が従来の約半分に短縮。さらにペーパーレス化の実現によりコスト削減や、承認者がオフィスにいない場合でも社外から承認を遂行できる環境が整備され、大幅な業務効率化を実現しました。
参照:https://www.canon-its.co.jp/case/detail/web_performer_28.html
代表的なローコード開発ツール
ローコード開発ツールは様々なジャンルごとに分かれて登場しており、ローコード開発を導入する際はシステムの目的や用途に合わせて、最適なツールを選択することが大切です。
ここでは代表的なローコードツールを4つ紹介していきます。
PowerApps
「PowerApps」はMicrosoftが提供するローコード開発ツールで、Microsoft365やOffice365を契約していれば利用することが可能です。
開発環境として「Power Apps Studio」が用意されており、PowerPointやExcelを利用するのと同じような感覚でアプリを構築することができます。
PowerAppsは多くの外部サービスとの連携を簡単に実装できる仕組みになっています。
以下はPowerAppsが連携できる外部サービスの例です。
- Office 365
- Dynamics 365
- Microsoft Azure
- One Drive
- Excel
- Dropbox
- Salesforce
- Slack
例えば、Salesforce上に登録されている商談情報をPowerAppsのアプリで参照するなどのデータ連携を簡単に実装することが可能です。
特にOffice365は多くの企業で導入されているので、Office365に蓄積されたデータをPowerAppsのアプリで集計するなどの使い方も可能です。
Salesforce Lightning Platform
「Salesforce Lightning Platform」は世界的に有名なSFAツール「Salesforce」の構築に利用されているプラットフォームです。
ノンプログラミングで開発ができることはもちろん、Salesforceが提供する豊富な機能を自由に利用することができるため、世界中の企業で利用されている機能を自社のシステムに簡単に追加することができます。
以下はSalesforce Lightning Plathomeで利用できる機能の一部です。
- データベース
- ユーザー認証
- ワークフロー
- レポーティング
- ダッシュボード
- 分析エンジン
Salesforceのデータにアクセスする機能やデータの自動取り込み機能なども用意されているので、基幹システムやSFAとして既にSalesforceを利用している企業が活用することで更なる業務効率化が見込めます。
Salesforce Lightning Plathomeの公式サイトはこちら
楽々Framework3
「楽々Framework3」は住友電工情報システムが提供する純国産のローコード開発ツールです。
システムで利用するデータテーブル定義を専用の設計ツールで作成し、完成したデータをインポートするだけでシステムが自動プログラム生成をしてくれるので、開発者側の面倒なデータ設計が簡略化することができます。
シンプルなシステムであればプログラム自動生成機能を利用するだけで完成する場合もあります。
国産ローコード開発ツールであるため、日本企業特有の帳票文化にも対応しています。
作成したい帳票レイアウトのExcelファイルを用意するだけで、システムから自由に帳票を作成することができるので、ペーパーレス化を実現することができます。
Bubble
「Bubble」はWebアプリを作成するためのローコード開発ツールです。
あらかじめWebサイト構築に必要なUIパーツがデザインツールとして用意されており、それらをドラック&ドロップで並べていくだけでWebアプリを開発することができます。
Bubbleは外部サービスとの連携機能が豊富に用意されており、APIが用意されている外部サービスであれば、自由にデータのやりとりが可能なため、クラウドサービスを多く利用している企業におすすめなローコード開発ツールです。
企業のランディングページをBubbleで素早くローンチし、資料請求や問い合わせフォームからの情報をAPI連携で社内コミュニケーションツール・CRM・SFAと連携するなどが利用例になります。
ローコードでよくある質問
- ローコードはセキュリティ的に大丈夫?
-
ツールごとにセキュリティの度合いは異なります。詳しくは以下の記事をご覧ください。
- 今行っているExcel業務をローコードに置き換えられる?
-
可能です。詳しく知りたい方向けに、常時ウェビナーを開催していますので、ご興味ありましたらご覧ください。
ローコードで始める脱Excel業務 どのように始める?脱Excel Excel(エクセル)は多くの企業内で導入され、表計算やVBAによるマクロ機能が充実していることから、顧客管理や施工管理、品質管理など多くの…
【まとめ】企業はローコード開発を取り入れるべき
この記事ではローコード開発のメリットから、ローコード開発の事例、そしてローコード開発に役立つツールまで解説してきました。
ローコード開発を導入することで、IT人材が十分に確保できない中でも、最低限のリソースでシステム開発が可能です。企業DXや生産性向上がさけばれる現在において、自社のシステム課題の解決に役立ちます。
特に、スタートアップや中小企業においては、システム開発を外注しなくとも、自社でシステム化ができるため、スピーディなビジネス展開やコスト削減にもつながります。
業務効率化に向けた業務システム開発や、アイデアを形にしたいとお考えの企業は、ぜひローコード開発を用いたシステム開発を検討してみてください。