「システムなんて動けばいいや」で終わっていませんか?
この記事では、高品質な成果物を作成するために、「何をどこまで達成すれば良いのか?」「プロジェクトでどのように行動すべきか?」を明確にし、ITエンジニアとしての指針に使える内容を目指しました。
ベテランエンジニアには「当たり前」の内容かもしれませんが、むしろ、スキルアップや現場での目標設定に悩む、経験の浅いエンジニアの方々にこそ読んでいただきたい記事です。
システム開発における「品質」って何だろう
システム開発で「品質」を語るとき、単に「問題なく動く」だけでは不十分です。本当に価値のあるシステムとは、お客様の期待に応え、その想いを形にできるものだと考えます。そこで、開発者とお客様、それぞれの視点から「品質」というものを捉え直してみましょう。
システム開発における両者の関係性
システム開発は、お客様の「こうしたい」という願いから始まり、それを開発者が具体的な「システム」として実現する一連のプロセスです。
- お客様(クライアント)の視点:
- 業務上の課題や目標を、開発チームに「要望」として伝えます。
- 例えば、「作業を効率化したい」「顧客満足度を上げたい」「セキュリティを強化したい」といった、具体的な目的や機能への期待を語ります。
- 開発者(デベロッパー)の視点:
- お客様の「要望」を詳細に分析し、システム設計や仕様書(要件定義)として具体化します。
- 要件定義に基づいて、システムを開発・実装し、お客様の期待に応える形での「納品」を目指します。
理想と現実とのズレ
理想を言えば、要件定義に、お客様の想いが全て詰まっているのが望ましい状態です。しかし、実際には、以下のような状況が起こりえます。
- お客様の要望の曖昧さ: お客様自身、具体的にどのようなシステムが必要なのかを明確に伝えられない場合がある。
- 認識のミスマッチ: お客様の言葉を、開発側が別の意味で捉えてしまうことがある。
- 開発中の変化: 開発が進むにつれて、お客様の要望が変わったり、当初想定していなかった課題が出てくることがある。
このようなズレが生じることで、完成したシステムが、お客様が本当に求めていたものとは異なってしまう、ということが起こってしまうのです。
新たな「品質」の定義:顧客要望の達成度
そこで私は、システム開発における「品質」を、「要件通りに作る」だけでなく、「お客様の要望をどれだけ実現できるか」という視点で捉え直すべきだと考えます。
つまり、「品質」とは、お客様の「こうしたい」という想いが、どれだけシステムに反映されているかの度合いだと定義します。
この定義を踏まえれば、開発者は、以下の点を意識する必要があるでしょう。
- お客様の真の想いを理解すること:
- 表面的な要望だけでなく、その背景にある本質的な課題や、お客様が本当に達成したい目標を掴むように努力する。
- お客様と同じ視点を持つこと:
- 「もし自分がこのシステムを使うなら、どうすれば使いやすいか?」「このシステムは本当に課題解決に繋がるのか?」というように、お客様の立場になって考える。
- 変化を恐れず柔軟に対応すること:
- 途中で仕様変更が生じても、お客様の「想い」を実現するために、柔軟に対応していく。
この定義を胸に、お客様の想いを理解し、共にシステムを作り上げるという意識を持って開発を進めていきましょう。
そもそも良いシステムって何なんだろう
「良いシステム」とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか?
システム開発の現場では、ともすれば技術的な完成度や開発効率ばかりに目が向きがちですが、本当に重要なのは、クライアントがシステムに何を求めているのかを理解することです。
ここでは、私が考える「クライアントがシステムに求めるもの」を5つの視点から分析してみました。
1. 機能性:本当に必要な機能が備わっているか?
これは当然のことですが、まずシステムには、クライアントが求めている「機能」が備わっている必要があります。当たり前のようですが、意外と見落としがちなポイントです。
単に「機能がある」だけでなく、以下の3つの点が重要です。
- 合理性: システムの目的や、業務の課題に対して、本当に必要な機能が実装されているか? 不要な機能や、使われない機能は、開発コストや運用コストを増大させるだけでなく、システムの複雑化を招きます。
- 正確性: 必要な情報を、必要なタイミングで、正確に提供できるか? 入力ミスやデータ破損があると、業務に支障をきたし、大きな損失につながる可能性もあります。
- 相互性: 既存のシステムや、他の機能と連携できるか? 孤立したシステムは、データの活用を妨げ、業務効率を低下させてしまいます。
2. 使用性:ユーザーにとって使いやすいか?
どれだけ高機能なシステムであっても、使いづらければ意味がありません。ユーザーが快適に、そして効率的に使えるシステムである必要があります。
- 理解性: 誰でも直感的に操作できるか? マニュアルを読まなくても、使い方を理解できるような、分かりやすいUI(ユーザーインターフェース)が求められます。
- 習得性: 操作方法をすぐに覚えられるか? 使い慣れるまでに時間がかかると、ユーザーの業務効率を低下させてしまいます。
- 魅力性: 使っていて心地良いか? ユーザーが「このシステムを使ってみたい!」と思えるような、魅力的なデザインや機能になっているでしょうか?
3. 効率性:期待通りの性能を発揮するか?
システムは、必要な機能を備えているだけでなく、期待通りのパフォーマンスを発揮する必要があります。特に、大量のデータを扱うシステムや、リアルタイム処理が求められるシステムでは、以下のような点に注意が必要です。
- 時間効率: 処理速度が遅すぎないか? システムの処理速度が遅いと、業務効率が低下し、ユーザーのストレスを招きます。
- 資源効率: サーバーやパソコンの負荷が高すぎないか? システムが、過剰にメモリやCPUを消費すると、動作が不安定になる可能性があります。
4. 信頼性:いつでも正確に動き続けるか?
システムは、常に安定して動作し、正確な結果を出力する必要があります。システムが頻繁に停止したり、誤ったデータを出力したりするようでは、安心して使うことはできません。
- 成熟性: あらゆるトラブルを考慮した設計になっているか? 予期せぬエラーや、バグが発生しないように、しっかり作り込まれている必要があります。
- 耐障害性: システムの一部が故障した場合でも、システム全体が停止しないような対策が施されているか? 一部の機能が止まっても、他の機能は使えるようにしておくことが重要です。
- 回復性: 障害発生時に、データを復旧し、システムを早急に回復できる体制が整っているか? 障害が長引くと、業務が長期間ストップし、大きな損害につながる可能性があります。
5. 保守性:長く使い続けられるか?
システムは、一度作ったら終わりではありません。長く使い続けるためには、システムの変更や修正が容易に行える必要があります。
- 解析性: システムのどこに問題があるか? バグなどの原因箇所を特定しやすいか?
- 安定性: 修正が他の機能に影響を与えないか? 修正によって、他の機能が動かなくなるようなことがあってはいけません。
- 試験性: システムのあるべき姿を評価しやすいか? 改善や機能追加を行う際に、それが本当に効果があるのかを検証できる必要があります。
これらの5つの要素は、クライアントがシステムに求める、様々な要望を具体的に表したものです。これらの要素を深く理解し、それぞれのバランスを考慮することで、より高品質なシステム開発を目指していきましょう。
発注者が抑えるべきポイントって?
高品質なシステムを開発するためには、開発者側の努力だけでなく、発注者側の協力も不可欠です。ここでは、発注者側が品質にコミットするためにできる3つのポイントをご紹介します。
1. 明確な要件定義:詳細な情報でズレをなくす
システム開発における最初のステップである要件定義は、発注者と開発者で「どんなシステムを作るか」を共有し、認識のズレをなくすための重要なプロセスです。発注者側が曖昧な要望を伝えたり、途中で頻繁に仕様変更をすると、開発が混乱し、最終的なシステムの品質低下に繋がります。
- 具体的な要望を伝える: 抽象的な表現ではなく、具体的な言葉で、システムに求める機能、使いやすさ、パフォーマンスなどを伝えましょう。
- 例:「顧客情報の一覧を表示したい」ではなく、「顧客ID、氏名、住所、購入履歴を表示した一覧を、検索機能付きで表示したい」のように、具体的なイメージを共有しましょう。
- 優先順位をつける: 全ての要望を一度に満たすのは難しいこともあります。本当に必要な機能、優先度の高い機能から順に実現するようにしましょう。
- 情報開示を惜しまない: 業務プロセス、データ形式、過去のシステム情報など、開発に必要な情報を積極的に共有しましょう。
- 実現可能性を確認: 開発期間、予算、技術的な制約など、実現可能性を十分に考慮した上で、要件を定義しましょう。
2. 開発プロセスへの積極的な参加:コミュニケーションで手戻りを防ぐ
システム開発は、開発者任せにするのではなく、発注者も積極的にプロセスに参加することが重要です。
開発状況を定期的に確認し、フィードバックを共有することで、手戻りを減らし、より早く理想的なシステムを完成させることができます。
- 進捗状況の定期的な確認: プロジェクトの進捗状況を定期的に確認し、問題点や懸念点を早期に発見します。
- テストへの参加: テスト段階では、発注者自身もテストに参加し、システムの使いやすさや要件との一致度を評価します。
- フィードバックの共有: システムの改善点や要望を、具体的な言葉で開発側に伝え、認識のずれをなくします。
- 柔軟な姿勢: 完璧な要件定義をすることは難しいため、柔軟な姿勢で開発プロセスに参画することが重要です。
3. 納品物の品質をきちんと確認:妥協せずに最終チェック
システムが完成したら、必ず納品物の品質をきちんと確認しましょう。
テスト結果、操作性、セキュリティなどを細かくチェックすることで、リリース後のトラブルを未然に防ぎ、安心してシステムを運用することができます。
- テスト結果の確認: テスト結果を詳細に確認し、不具合がすべて修正されているかを確認します。
- 操作性のチェック: 実際にシステムを操作し、使い勝手や分かりやすさを確認します。
- セキュリティの確認: セキュリティ対策が万全に行われているかを確認します。
- 仕様書との照合: 完成したシステムが、要件定義書通りに作成されているかを確認します。
- 妥協しない姿勢: 納品物に不満がある場合は、妥協せずに開発側に修正を依頼しましょう。
これらの3つのポイントを意識することで、発注者側も品質の高いシステム開発に大きく貢献することができます。
開発者が品質を意識するために:プロとして当たり前のことを当たり前に
システム開発において、品質を担保するのは、決してテスト担当者だけの責任ではありません。開発者一人ひとりが、プロフェッショナルとして品質を意識し、日々の開発業務に取り組むことが重要です。
品質を意識するための開発者の行動指針
常にユーザー視点を持ち、本当に求められているものを作る
- システム開発は、顧客やユーザーの課題を解決するための手段です。
- 開発者は常に「誰が、どのように使うのか?」という視点を持って、システムを設計・実装する必要があります。
- ユーザーの視点に立ち、本当に求められているものを理解し、それに応えるシステムを開発しましょう。
設計段階からテストを意識する
- コードは美しく、読みやすく:メンテナンス性の高いコードを書く
- コードは、自分だけでなく、他の人が見ても理解できるように、読みやすく、美しいコードを書くように心がけましょう。
- 命名規則、インデント、コメントなどを適切に行い、コードの可読性を高めることが重要です。
- 可読性の高いコードは、将来的な保守・運用を容易にします。
常に最新の情報をキャッチアップ
- 技術の世界は常に変化しています。新しい技術や開発手法、セキュリティ情報などを常にキャッチアップし、最新の知識を身につけることが重要です。
- 技術情報のアンテナを高く保ち、積極的に学習することで、より高品質なシステムを開発できます。
- 変化に柔軟に対応し、新しい技術を積極的に取り入れる姿勢を持つ。
- テストは、開発の最終段階で行うものではありません。設計段階から、テストを意識し、テストしやすい設計を行う必要があります。
- 具体的なテストケースを事前に検討したり、モジュールごとにテストしやすいように設計するなど、後工程のテストを効率的に行うための工夫をしましょう。
チームで協力し品質を高める
- システム開発は、チームで行うものです。チームメンバーと協力し、お互いにコードをレビューし合うことで、品質を高めることができます。
- 一人で抱え込まず、チームで知恵を出し合い、より良いシステムを目指しましょう。
- コードレビューによって、知識を共有し、チーム全体のスキルアップにも繋げる。
常に改善を追求する
- 一度完成したシステムも、改善の余地は常に存在します。
- 現状に満足せず、常に高みを目指す姿勢が、より良いシステムを生み出します。
- ユーザーからのフィードバックを真摯に受け止め、改善を繰り返すことで、システムの品質を向上させていきましょう。
これらの行動指針を常に意識することで、開発者一人ひとりが、より高品質なシステムを開発できるようになります。また、プロフェッショナルとしての責任感を持ち、チームで協力しながら、より良いシステムを追求していくことが大切です。
まとめ
システム開発における品質は、単に「動く」だけでは達成できません。可用性、信頼性、保守性、ユーザビリティ、セキュリティという多角的な視点での品質管理が不可欠です。そして、それは開発プロセス全体を通して意識的に取り組む必要があります。
本記事で紹介した5つの要素を参考に、要件定義から運用・保守まで、各段階で品質を意識した行動を心がけましょう。また、発注者側も開発者側も、品質に対するコミットメントが重要です。
ファンリピートは、品質を最重視したシステム開発を支援します。ぜひお気軽にご相談ください。