BPR(Business Process Re-engineering)について、「聞いたことはあるが具体的な事例や手順については知らない」という方も多いのではないでしょうか。
単純な業務改善とは異なり、BPRは根本的にビジネス全体のプロセスを組み替えることを意味します。そのため、組織全体で取り組む必要があります。
BPRは、実現することが容易ではない一方で、成功した際の効果は非常に大きいものです。この記事では、BPRとは何かやメリット・デメリット、導入までのステップ、成功事例についてご紹介します。
BPRとは
BPRとは、企業が現在の業務プロセスを根本から見直し、抜本的に再設計することで、大規模な業務プロセスの改善を行うことを指します。単なる改善ではなく、ゼロベースから最適なプロセスに見直しを行うことで、大幅な生産性向上や業務の効率化を実現することを目的とします。
また、ITの活用や組織・役割の再編などを伴う大規模な変革を含みます。
BPRの目的とは
企業がBPRに取り組む目的は、主に3つの観点が挙げられます。
1つ目は、既存の業務プロセスを根本から見直し、無駄を排除して再構築することが目的です。部分的な改善ではなく、ゼロベースからの見直しを行います。
2つ目に、顧客にとってより価値の高いサービスや製品を提供できるよう、業務の流れを顧客中心に再編成することが狙いです。
最後に、コスト削減、リードタイム短縮、品質向上などを実現し、競合他社に対する競争力と優位性を確立することが目的となります。
BPRが注目される背景とは
BPRの原型は1990年初頭にアメリカで生まれました。元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー博士と、経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー氏による『リエンジニアリング革命』に端を発しているとされています。
もともと、日本企業の業務プロセスをアメリカ企業が参考にしたという経緯もあったようですが、1990年初頭の日本はバブル崩壊を迎えており、リストラの助長としてBPRが行われたという負の側面がありました。
現在では、働き方改革によって再度BPRが注目を浴びています。長時間労働の是正や生産性向上が求められる中、ビジネスの流れを根本的に見直すことが重要な課題となってきています。
将来的に、少子高齢化が進む中で人手不足が深刻化していくことは明確です。したがって、BPRによって人的プロセスからデジタルプロセスへのシフトを促進し、生産性向上を図ることができるかどうかが重要です。
BPRと業務改善の違い
BPRは、既存のプロセスを根底から捨て去り、全く新しいプロセスを構築する革命的な改革です。
一方、業務改善は、既存のプロセスを少しずつ改良していく漸進的な改善です。つまり、BPRは抜本的な変革を目指すのに対し、業務改善は部分的な効率化を図るものになります。改革のレベルとアプローチが大きく異なります。
BPRのメリット
BPRのメリットについてもご紹介をしていきたいと思います。以下の3点についてご紹介いたします。
- 業務フロー全体を把握できる
- 従業員満足度の向上につながる
- 意思決定のスピードがアップする
業務フロー全体を把握できる
BPRの構築を行うことで、業務全体が可視化され、各プロセスの役割や相互の関係性が明確になります。これによって、無駄な工程や手順、重複作業などの非効率な部分が発見しやすくなり、改善の糸口を見つけることができます。
また、ビジネス全体を俯瞰することで、組織横断的な課題や部門間の連携の必要性が浮き彫りにできます。お互いの業務を理解し合うことで、全体最適化へとつながります。
さらに、業務の流れ全体を標準化・共有することで、新人教育の効率化や知識の継承がスムーズになります。組織全体で業務の実態を共有できるため、より生産的な業務運営が実現するのです。
従業員満足度の向上につながる
作業の効率化によって生産性が高まることにより、従業員の残業時間が削減されたり、ストレスが和らぐなどすうることで、従業員満足度の向上にもつながります。
また、BPRを通じて業務の標準化が進めば、ルール化された明確な役割分担によって責任の所在が明確になります。
さらに、流れの可視化によってプロセス全体を俯瞰できるようになると、自分の業務が組織の中でどのように位置づけられているかが分かりやすくなります。それにより、従業員一人ひとりが自身の存在価値を実感できるようになり、モチベーションの向上にもつながるのです。
このように、BPRは業務の生産性と効率性を高めるだけでなく、働きやすい環境づくりを通して、従業員満足度の向上にも寄与します。
意思決定のスピードがアップする
業務のフローが明確になることで、各プロセスの役割と責任者が明確になります。そのため、課題発生時の判断の遅れや、役割の錯綜による意思決定の遅延を防ぐことができます。
また、全体を俯瞰できるようになれば、各部門間での連携が円滑になり、部署をまたいだ全社的な視点での意思決定が可能になります。部分最適ではなく全体最適を意識した判断ができるようになるでしょう。
さらに、業務の標準化によって規定や手順が明文化されることで、過去の経験則に頼らずに迅速な意思決定ができるようになります。個人の勘や主観に流されず、データに基づく合理的な判断が可能になるのです。
このように、BPRによる業務の見える化と標準化は、権限と責任の明確化、部門間連携の促進、客観的データに基づく判断の実現につながり、意思決定のスピードアップをもたらします。
BPRのデメリット
BPRのメリットについてもご紹介をしていきたいと思います。以下の2点についてご紹介いたします。
- 浸透までに時間と労力がかかる
- 従業員から反発を受ける可能性がある
浸透までに時間と労力がかかる
BPRを実施し、新しいビジネスプロセスを浸透させるまでには、時間と労力がかかります。
まず、従来の業務を分析し、無駄や非効率を特定するための準備作業にかなりの時間が必要となります。また、新しく設計する際、関係者全員の合意を得る調整には骨が折れるでしょう。
さらに、新しいプロセスが軌道に乗るまでには、試行錯誤を重ねる必要があり、混乱や生産性の一時的な低下も避けられません。
BPRによる恩恵を実感するまでには、関係者全員が新しい業務の流れに慣れ、定着するのを待たなければなりません。そのための期間とフォローアップに多大な労力を費やさざるを得ません。この浸透期間が長期化するリスクがBPRの大きなデメリットなのです。
従業員から反発を受ける可能性がある
BPRは業務全体の流れを根本から見直すため、従来の業務手順や役割分担から大きく変更される場合があります。そうした大幅な変更は、従業員に強い抵抗感や不安を抱かせてしまう可能性があります。
例えば、慣れ親しんだ業務スタイルから一変することへの違和感や、役割が変わることへの不満などが考えられます。また、新しい業務の流れへの理解不足や、スキルの変更を求められることへの戸惑いなども反発の種になります。
さらに、BPRによる組織再編で、権限や地位が変わったり、昇進・昇格のチャンスが失われたりすることも、反発を招く一因となります。
このように、従業員の心理的ストレスや不安感が高まれば、新しいビジネスプロセスへの協力が得られず、浸透が進まない恐れがあります。BPRを円滑に進めるには、事前の丁寧な説明と従業員の不安解消が欠かせません。反発を和らげ、理解と協力を得ることが大きな課題となるのです。
BPRの導入ステップ
ここからは、BPRを実際に導入するためのプロセスをステップごとに説明します。
ステップ1.目的・ゴールを明確にする
BPRを始めるにあたり、最初に行うべきことは目的やゴールを明確にすることです。
コスト削減、リードタイム短縮、品質向上、顧客満足度向上など、BPRによって達成したい具体的な目標を設定する必要があります。
この目標がその後の改革の方向性を決めるため、関係各所と十分に検討して合意形成を行うことが不可欠です。
曖昧な目標では最終的に改革が行き詰まってしまう可能性があるため、できるだけ具体的かつ測定可能な目標を立てることが望ましいでしょう。
ステップ2.分析を行う
目標が決まれば、次は現状のプロセスを徹底的に分析し、無駄や非効率な箇所を特定する作業に入ります。
プロセスマッピングなどの手法を用いて、業務の流れを可視化することがポイントになります。実際に現場に入って作業の様子を観察したり、従業員へのヒアリングを行ったりと、様々な方法で現状の業務実態を掘り下げる必要があります。
この分析結果を基に、優先的に改善が必要な箇所を選定します。
ステップ3.設計する
分析で明らかになった現状の課題を踏まえ、新しい最適化されたプロセスをゼロベースで設計します。
単にこれまでの業務の流れに手直しを加えるのではなく、はじめから業務の全体像自体にメスを入れることが重要です。
IT化の検討や、業務のアウトソーシングなども視野に入れる必要があるでしょう。また、単に業務効率化だけでなく、付加価値向上を目指した新たな視点も求められます。
新たなプロセスの設計では、経営陣や現場の責任者、従業員など、あらゆる関係者の意見を取り入れながら、徹底的な議論と合意形成を行うことが重要です。
ステップ4.実施する
設計された新プロセスを実際に導入する段階に入ります。この実施段階においても、さまざまな準備作業が必要です。
まず従業員への教育訓練が欠かせません。新しい役割や業務手順を徹底的に理解してもらう必要があるためです。次に、新しいシステムやツールの構築が求められる場合もあるでしょう。
さらに、業務マニュアルの作成や、関連する規程の見直しなども行う必要があります。実際の導入に当たっては、大がかりな変更を一度に行うのではなく、テストランを重ねたり、段階的に実施したりするなどの配慮が求められます。
急激な変化は現場に混乱を招きかねないため、スムーズな移行を可能にする工夫が必要です。
ステップ5.検証・評価を行う
新たなプロセスを導入してから一定期間が経過した後、検証と評価を行う必要があります。
当初設定した目標に対する達成度を測り、課題点を洗い出します。目標を達成できなかった場合は、その原因を分析する必要があります。
単にプロセス自体が適切でなかったのか、それとも従業員の理解不足や協力が得られなかったのかなど、様々な観点から原因を探る必要があります。次のアクションにつなげるため、丁寧な検証作業が欠かせません。
そして、この検証結果を基に、さらなる改善に向けてPDCAサイクルを継続的に回していくことが重要になります。
このように、BPRは準備から実施、検証に至るまで、複数の段階を経る長い道のりです。全ての段階で、経営陣から現場の従業員に至るまで、関係者全員の理解と協力を得ながら、着実かつ丁寧に進めていくことが、BPRの成功のカギとなるのです。
BPRの成功事例3選
ここでは、BPRの成功事例を3つ紹介します。
ダウ・ケミカル社の事例
ダウ・ケミカル社は、SAP(ERPシステム)を自社のビジネスプロセスと連動させるため、7か月間SAPのカスタマイズを行いました。
しかし、試行錯誤の末、最終的には100人の社員に1年間教育訓練を行い、製品がどのように使われるかを理解してもらうことにしました。その結果、サポートされていないカスタマイズをし続けるのではなく、製品設計にビジネスプロセスを適合させることに成功しました。
ビジネスプロセスを組み替えた良い事例です。
参考:What is BPR?|INDIANA WESLEYAN UNIVERSITY
富士フイルム社の事例
富士フイルムグループは、デジタルトランスフォーメーションの一環として、2017年にRPAツールの導入を開始しました。
経理部門などをパイロットとした実証実験を経て、RPAとBPRをセットで行うことで業務の7割を効率化できると実感しているということです。
2018年にRobotic Innovation室を立ち上げ、RPAだけでなく様々なITツールを適材適所で活用することで、徹底した業務の自動化・効率化を推進しています。
今後は、経理部門を中心に全従業員がRPAを使いこなせるようスキル育成を図り、部門主導で業務改革を推進できる体制を整備していく方針。RPAの活用を通じて業務の生産性向上と働き方改革の実現を目指しています。
参照:UiPath事例:富士フイルムホールディングス株式会社・富士フイルム株式会社
岡山県鏡野町の事例
岡山県鏡野町では、紙ベースを必要とする考えが根強くあり、WEBシステムでのサービス提供が進んでいない実態がありました。
しかし、マイナンバーカードの普及率向上と新型コロナウイルス感染症予防対策におけるニーズが高まり、WEBシステムの導入が必要な状況になっていました。
そのため、内閣府の交付金も活用しながら、約3千万円を投資して電子申請・届出システムの導入を進めました。
既にシステム的には利用可能な申請や手続きの拡大は柔軟に対応できる状態になっているため、より活用ができる職員の育成に努めています。BPRをへて完全ペーパーレス化を推進していく予定となってます。
まとめ
BPRの意味やメリット・デメリット、成功事例などの内容についてご紹介しました。業務プロセスの抜本的な改善は痛みを伴いますが、成功した場合には大きなメリットを企業にもたらします。
BPR成功のために必要な導入ステップやデメリットをしっかりと把握し、ビジネスの再構築を実現していきましょう。