近年の急速な技術発展により、さまざまなAIソリューションが利用できるようになりました。しかし、自社でAIソリューションを活用する方法を、いまいち掴めていない方も多いのではないでしょうか。
AIソリューションは業務効率化や省力化に役立つシステムです。活用が遅れれば、競合他社に技術面や労働条件面で後れを取り、市場での競争力を失ってしまうかもしれません。
本記事では、AIソリューションの概要や種類、導入事例を解説します。種類や事例を知り、自社に合うAIソリューションがないかを確かめてみてください。
AIソリューションとは何か
AIソリューションとは、AIが搭載された課題解決のためのシステムのことです。2000年代から現在まで続く第3次AIブームにより飛躍的な進歩を遂げたAIを活用することで、業務効率化や省力化が図れます。
注目度が高まっているAIソリューションの市場規模は、加速度的な成長を遂げるといわれています。
また、世界4大監査法人「BIG4」の一つであるPwCが行った「生成AIに関する実態調査」によると、2023年春の段階ではAIの活用を検討している割合は22%でした。しかし、2023年秋には87%もの企業が活用を検討しています。
このことから、生成AIは企業でも急速に活用が進んでいることが分かります。AIに対する関心が高まり、市場規模が拡大する背景を考えると、AIを活用する企業は今後さらに増えていくでしょう。
AIソリューションの種類
現在、自然言語や画像、動画から音声まで、さまざまなデータ媒体に利用できるAIソリューションが開発されています。ここでは、AIソリューションで自然言語・画像・音声に対して使われる技術を挙げ、特徴や代替できる業務などを解説します。
具体的なAIソリューションの機能や用途が知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
自然言語処理
自然言語処理とは、日本語や英語などの自然言語を処理する技術です。文章に関するタスクを、人よりも圧倒的に速くこなすことができます。
自然言語は候補となる語句が多く、組み合わせや文脈が複雑という特徴があります。そのため、第3次AIブームが始まる前まで、21世紀中の自然言語処理の実現は難しいといわれることもありました。現在はChatGPTの登場により世間に広く知れ渡るようになりましたが、高度な技術が用いられています。
自然言語処理では、以下のような業務の実施が可能です。
- 文章生成
- テキスト分析
- 文章の要約
- 感情分析
- 文章の分類
具体的な業務では、翻訳や記事制作、チャットボットに活用できます。
また、文章と数値が入り混じったデータを分析することも可能です。生成AIでデータ分析をする方法は以下の記事で解説しています。
画像認識
画像認識とは、画像の中に映る人やモノ、画像全体の様子を認識する技術です。対象物の検知や画像全体の分類など、画像に関するさまざまなタスクをこなせます。また、画像認識を応用することで、動画内の対象物や状態を認識することも可能です。
画像認識では、以下のような処理ができます。
- 顔認識
- 物体検出
- 画像分類
具体的には、本人認証や防犯カメラ、病院での画像診療などに活用されています。
また、画像からはさまざまな情報を一度に取得できるため、1台のカメラで複数の業務を同時に行うことが可能です。例えば、小売店にAIカメラを設置すれば、防犯・導線分析・顧客の属性分析・従業員の勤怠管理に活用できます。
音声認識
音声認識とは、音声を認識してテキストに変換する技術です。手を使わずに文章を入力したり、音声データをテキストデータに変換したりすることができます。
音声認識は、iPhoneに搭載されているSiriやAmazon社のAlexaなどの身近なデバイスに搭載されているため、利用経験のある方が多いかもしれません。デバイスに直接触れる必要がないうえに素早く入力できるため、効率化や省力化に活用できます。
音声認識では、以下のような業務ができます。
- 対話の記録
- 音声によるデバイス操作
- 文字起こし
具体的には、議事録の作成やAIによる電話対応に活用されています。
AIソリューションのメリット
AIソリューションを活用すれば、業務を効率化したり、これまで人が行っていた業務を代替したりすることができます。これにより、市場での優位性確保やコスト削減につなげられます。
業務効率化
AIは業務の補助や代替が可能です。例えば、議事録の作成やデータ分析、需要予測などにAIを活用すれば、業務品質を落とすことなく人の業務量を削減できます。
また、業務効率化が実現すれば、より少ない人手で従来通りの業務をこなせるようになります。業務に必要な労力を削減できるため、長時間の残業や人手不足の解消に有効です。
コスト削減
AIを活用して効率化や自動化が実現すれば、人件費や管理費などのコストを削減できます。例えば、画像認識技術を活用して監視業務を自動化できれば、これまで監視に充てていた人件費を削減できます。
また、精度の高い需要予測や在庫管理ができれば、機会損失の低減やロスの削減が可能です。このように、AIを適切に活用することで、コストを削減して利益を最大化できます。
市場での優位性確保
AIを導入することにより、業務効率化やコスト削減が実現すれば、従来通りの製品を低コストかつ低労力で生産・提供できます。ここで浮いた資金や労力を商品開発や優秀な人材の確保に充てれば、企業の競争力が向上するでしょう。
また、コスト競争において有利なだけでなく、AIを利用して新たな付加価値を顧客に届けられれば、付加価値の創出にもつなげられます。このように、AIを活用することで、市場における優位性をあらゆる角度から確保できます。
AIソリューション導入の具体的な事例
すでに数多くの企業が、AIソリューションを導入して競争力を向上しています。ここでは、画像認識・チャットボット・需要予測を活用して競争力を高めている例を紹介します。
- ひび割れ検知で作業時間が10分の1に(首都高技術株式会社ほか2機関)
- 電話対応業務を代替(ヤマト運輸株式会社)
- 在庫の最適化で年間数百万円のコスト削減(城南電機工業株式会社)
また、以下の記事ではAIの導入事例を業界別に詳しく解説しています。
画像認識|ひび割れ検知で作業時間が10分の1に
キャプション:(右)従来のソフトは型枠跡をひび割れだと誤検出しているが、(左)AIによるひび割れ検知では誤検出していない
首都高技術株式会社・国立研究開発法人産業技術総合研究所・東北大学の1社2機関は、コンクリートのひび割れを80%以上の精度で検出するAIソリューションを共同開発しました。
これまで、橋梁や道路のひび割れは、人の目によって定期的に点検されていました。しかし近年、高齢化や人材不足などの問題からメンテナンスを担当できる人員が不足しています。
そこで、日本各地から集めたコンクリートの画像データを機械学習させることにより、画像からひび割れを検出することができるようになりました。
また、AI画像認識で人が担当する業務は、ひび割れを調べたい区画の撮影のみです。そのため、従来の点検作業に比べて作業時間を10分の1に削減できると考えられています。
チャットボット|電話対応業務を代替
ヤマト運輸株式会社は、電話対応業務をチャットボットで代替することにより、従業員の負担を低減しながら、顧客の待ち時間を大幅に削減しています。
同社は従来、特定の時間帯に電話が集中することや人材不足により、顧客がコールセンターにつなげられない事態が発生していました。
そこで、定型的なやり取りの多い集荷依頼を、チャットボットでの対応に切り替えました。その結果、人が対応する架電数を減らし、顧客の待ち時間を大幅に削減することに成功しています。
これにより、緊急性や複雑性が高い問い合わせに、早く・丁寧に・時間をかけて対応できるようになりました。
また、チャットボットが受けた集荷依頼の内容を自動入力するシステムを導入することで、入力にかかる労力や人的ミスも削減できています。
需要予測|在庫の最適化で年間数百万円のコスト削減
城南電機工業株式会社は、AIで需要予測することで在庫を最適化し、年間数百万円規模のコストカットを実現しています。
同社では、発注内示数と実際の納入数の差により機会損失や過剰在庫が発生し、年間数百万円以上の損失が発生していました。
そこで同社は、これまで蓄積してきたデータを基に、納入数を予測するAIソリューションを開発し、在庫の最適化を図りました。
その結果、納入数の予測精度が大幅に改善し、滞留在庫を減少させることに成功しています。中には、誤差率を54%から24%に改善した製品もありました。
需要予測の精度が向上した結果、人員配置や生産体制の最適化が可能になり、年間数百万円規模のコストカットを実現しています。
AIソリューション導入ステップ
AIソリューションは、一般的に以下の手順で導入されます。
- ソリューションの選定
- 実装とテスト
- 運用とサポート
ソリューションの選定
まず、自社が抱えている課題から、最適なAIソリューションを選定します。AIソリューションによって得意な領域は異なるため、ツールやプラットフォーム選びは非常に重要です。
また、自社の課題解決に対応しているAIがなければ、目的の機能を有したシステムを開発する必要があります。フルスクラッチで構築すると時間とコストがかかるため、低コスト・短期間で開発できる「ノーコード開発」や「AI駆動開発」も視野に入れるとよいでしょう。
AI駆動開発の概要やツールは以下の記事で解説しています。低コストかつ低労力での開発を目指している方は、ぜひ参考にしてください。
実装とテスト
AIソシューションが決まれば、自社に最適化して利用できるようにします。実装後には、実務に支障がないかを小規模でテストします。
テストの段階で問題点が見つかれば、AIソリューションの再選定が必要な場合もあるでしょう。問題点や課題をフィードバックし、自社の業務に最も適したシステムに仕上げることが重要です。
運用とサポート
AIソリューションは、実装後の運用やメンテナンスが必須です。AIによっては、現場のデータが蓄積するにつれて精度が下がるものもあります。そのため、AIが正常な結果を出力しているかを常に監視する必要があります。
また、従来とは業務の進め方が変わることもあります。説明や教育が不十分であれば、AIを使いこなせずに業務効率が低下する可能性があるため、従業員のサポートは必須です。想定通りの結果を得るためにも、運用とサポートは欠かさずに行いましょう。
まとめ
AIソリューションの活用は、業務の効率化や省力化を実現し、従業員の労力削減や企業の競争力向上に役立ちます。AIソリューションの市場規模は加速度的な成長を遂げると予測されていることから、これからはさらに多くの企業がAIソリューションを活用していくと考えられます。
今後、企業が競争力を向上するためには、AIソリューションを活用する能力が必須になるかもしれません。
しかしながら、自社に適していないAIソリューションを導入してしまうと、かえって業務が非効率化したり、導入費用がムダになったりしてしまいます。自社の課題に応じた最適なシステムを選び、効率化や省力化を実現してください。