自治体の業務に生成AIをどう活用する?活用アイデアや活用事例を解説

「自治体における生成AIの活用状況は?」
「各自治体では生成AIをどのように活用されている?」

民間企業の生成AI活用事例を見たことはあっても、自治体の活用事例を見たことがないという方も多いのではないでしょうか。

しかしながら、実際にはAI活用を推進している自治体は多くあり、年を追うごとに導入率が増加しています。

本記事では、自治体における生成AIの導入状況や有効な活用例、実際の活用事例を解説します。生成AIの導入に当たり、ご自身の部署で活用できるアイデアがないかを確認してみてください。

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目次

地方自治体におけるAIの導入状況

地方自治体における生成AIの導入状況は、市町村の規模によって大きく異なります。例えば、都道府県や政令指定都市では導入が進んでいますが、その他の市区町村では検討にすら至っていない場合もあります。

自治体におけるAI・RPA活用促進状況
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」

詳しくは後述しますが、導入が進まない背景には「取り組むための人材がいない・コストが高額」などの課題があります。とりわけ予算や労働力が不足している自治体にとって、AIの導入は非常に難しい問題といえるでしょう

しかしながら、その他の市区町村でも年を追うごとにAI導入は進んでおり、今後も増えていくと考えられます。

実際、地方自治体では以下のような用途でAIが活用されています。

  • 画像認識での道路損傷部分認識
  • 音声認識での会議録作成
  • チャットボットでの問い合わせ対応
  • AI-OCRでの申請書読取

このように、すでにAIを導入している自治体は、手間のかかる作業やムダを削減し、業務効率化や省力化を実現しています。

生成AIを業務に生かす活用例

生成AIは、次のような業務に活用できます。

  • 文章の作成と校正
  • 各種マニュアルの検索
  • 外国語翻訳
  • アンケートデータの集計
  • 会議録や公式文書の要約
  • アイデア出し
  • 電話の自動応答
  • OCR技術による申請フローの効率化

それぞれの活用方法や期待できる効果を解説します。

文章の作成と校正

AIを活用すれば、文章の作成や校正などのタスクを自動化できます。このような文章系のタスクは、文章生成AIで実行可能です。例えば、ChatGPTを日常生活で利用した経験がある方も多いのではないでしょうか。

文章生成AIを活用すれば、具体的に以下のようなタスクの自動化・省力化が可能になります。

  • 市民向けの広報資料
  • ニュースレターの自動生成
  • 政策提言書や計画書のドラフト作成

文章の執筆や校正にかかる時間を削減できるため、文章や書類の作成時間を大幅に削減できます。

各種マニュアルの検索

AIを搭載した検索システムを活用すれば、疑問点が掲載されているマニュアルをすぐに見つけることが可能です。自治体の部署内におけるマニュアルなどをデータベースに保管し、AIを使ってアクセスしやすい環境を作れば、対話するようにマニュアルの内容を確認できます。

マニュアル検索では、業務に関する疑問点を入力すると、マニュアルや資料内から答えとなる箇所を探して出力します。これにより、マニュアルを一から読むことなく、疑問を迅速に解消することが可能です。

外国語翻訳

AIを活用すれば、精度の高い翻訳をすることが可能です。AIは、単語同士の関連性を評価できるため、複数の意味を持つ単語を翻訳する際にも、正しく翻訳できます。

また、生成する文章を自然な文章に直せるため、翻訳した文章を修正する手間も少なく済みます。例えば、AIによる外国語翻訳を活用すれば、国際交流イベントでの通訳や翻訳が容易になり、観光案内パンフレットやウェブサイトの多言語翻訳などの省力化が実現します。

アンケートデータの集計

分析機能を持つAIを活用すれば、さまざまな手法による迅速なデータ分析が可能です。

エクセルやスプレッドシートなどに数式を手入力してデータを分析するには、非常に時間と労力がかかります。さらに、多くの因子が絡む複雑な計算となれば、人の計算能力で処理するのが難しい場合もあるでしょう。

そこで、AIのデータ分析を活用すれば、アンケートデータの集計といった手間のかかる作業や、高度な解析も短時間で完了できます。集計や解析が容易になれば、データ分析に時間を割けるようになるため、新たなインサイトや改善点が見つけられるかもしません。

会議録や公式文書の要約

AIは、会議録のような長い文章や、公式文章や条文などの難解な文章を、読みやすく要約できます。文章の要約は、文章作成や校正と同様に、ChatGPTのような文章生成AIで実行されます。

文章の要約を活用すれば、必要な文章か否かを素早く判断したり、どんなことが書かれているか概要や重要点を掴んだりできます。

アイデア出し

AIは、学習データに含まれる資料や過去の事例などをもとに、アイデアを提案してくれます。これを活用すれば、新規プロジェクトやイベントのアイデアを得ることができます。

AIは、学習データにない新たなアイデアを考えることは苦手ですが、学習データにある過去事例などを提示することは可能です。そのため、似た事例を調べたいときや、過去の成功例を参照したいときには有効です。

電話の自動応答

簡単な電話対応をAIで自動化すれば、問い合わせに対応する労力を大幅に削減することが可能です。電話の自動応答は、AIチャットボットを利用することで実現できます。

簡単な問い合わせを自動化できれば、複雑な問い合わせに多くの時間を割いたり、待ち時間を減らしたりすることができます。また、閉庁後や土日の対応もできるようになるため、月曜日の混雑緩和にも役立つでしょう。

OCR技術による申請フローの効率化

AI-OCR(光学文字認識)を活用すれば、書類の文章を素早くデータ化できます。これにより、パソコンへの書類入力作業が、1枚の写真撮影で完了します。

実際に、補助金の交付業務にAI-OCRを導入したことで、申請者データの入力作業を効率化した例があります。実際に人口35万人程度の自治体では、補助金の交付業務にAI-OCRを活用したところ、入力作業を96時間削減でき、申請受付から結果通知までの期間を短縮することに成功しています。

地方自治体の生成AI活用事例

すでにAIを活用して成果を上げている、5つの地方自治体の取り組みを解説します。

  • 神奈川県 横須賀市:英語で話すAI市長
  • 大阪府 守口市:ごみ出しに関する自動電話音声対応
  • 兵庫県 神戸市:市民の健康管理の手助け
  • 埼玉県 さいたま市:AIによる保育入所選考の自動化
  • 福島県 いわき市:AIを活用した介護予防

神奈川県 横須賀市:英語で話すAI市長

英語で話す横須賀市のAI市長
出典:横須賀市「全国初 生成AIを活用した市長アバターによる英語での情報発信の開始」

神奈川県横須賀市では、生成AIで市長のアバターを作成し、市長定例記者会見の様子を、英語でも発信できるようになりました。

同市は国際色が強く、多様な文化が混在する地域です。日本語が母国語ではない人も多く住んでいるため、同市は言語の壁を低くして情報が平等に届くよう、英語で情報発信する市長のアバターを作成しました。

参照:横須賀市|全国初 生成AIを活用した市長アバターによる英語での情報発信の開始

大阪府 守口市:ごみ出しに関する自動電話音声対応

大阪府守口市はごみ出しのルールを学習したAIモデルにより、24時間365日対応の電話対応サービスを提供しています。導入の結果、市民サービスの向上や電話応対件数の減少などの効果が得られました。

同市では、ごみの分別や収集日に関する電話相談の多さが問題となっていました。チャットボットを活用するなどの自動化は推進していましたが、電話による相談が多い状況は変わりませんでした。

この状況を改善するため、同社はAIによる自動電話応対サービスを導入し、年中無休でごみ出しに関する相談を受けられるシステムを構築しました。その結果、電話相談の件数は15%減少し、業務時間外にも対応できるようになりました。

問い合わせの約50%は業務時間外に対応していることから、これまで解消できなかった時間帯の疑問も解消できていることがわかります。このように、AIを活用することで業務を省力化しながら、市民へのサービス提供範囲を拡大しています。

参照:自治体におけるAI活用・導入ガイドブック(P63)

兵庫県 神戸市:市民の健康管理の手助け

兵庫県神戸市は、市民のヘルスケア関連データや歩数、食事などのデータを基に、健康に関するアドバイスをするアプリを提供しています。

アプリでは、市が保有する健診データや、実際に取った食事、活動データなどの情報を基にAIがアドバイスします。ユーザーは、個別最適化されたアドバイスが受けられるため、具体的にどこをどのように改善すればいいのかを理解できます。

また、市が保有する健診データは、ユーザーの同意のもとアプリに提供されているため、プライバシーも守られる体制を構築しています。

参照:自治体におけるAI活用・導入ガイドブック(P64)

埼玉県 さいたま市:AIによる保育入所選考の自動化

埼玉県さいたま市は、AIを活用して保育入所選考を行い、大幅な業務効率化を実現しています。

同市は従来、複雑な要素が絡む認可保育所の入所選考に膨大な時間がかかっていました。これをAI分析を活用して処理することで、省力化を図りました。

その結果、これまで1,500時間程度かかっていた選考が、数十分程度で完了するようになり、大幅な省力化が図れています。また、これまで10日以上かかることもあった選考は、数秒程度で完了できるようになり、保護者により早く結果を届けられるようになっています。

AIを活用した保育所の選考は、滋賀県草津市や東京都港区などでも活用されています。

参照:自治体におけるAI活用・導入ガイドブック(P66)

福島県 いわき市:AIを活用した介護予防

福島県いわき市は、AIを活用した介護予防を行い、介護度が急激に高まるハイリスク者を早期から特定しています。

これまでも、用紙に自身の健康状態について記録する方法で、ハイリスク者の特定はされていましたが、正確性と速度に課題を抱えていました。同市は、正確かつ迅速にハイリスク者を特定する方法として、市が保有するヘルスケア関連データをAI分析する取り組みを始めました。

AIを活用した介護予防では、これまでの体制では認知できなかったリスクの発見や、より高精度な予測ができると期待されています。今後、利用に伴いデータを増強できれば、精度をさらに上げることができるでしょう。

参照:自治体におけるAI活用・導入ガイドブック(P68)

地方自治体の生成AI導入に向けた課題とは?

総務省の調査によると、自治体のAI導入が進まない原因は以下のようになっています。

自治体におけるAI・RPA活用促進状況
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」

自治体のAI導入において大きな障壁となっている要因が、人材不足です。そもそも、IT人材は不足傾向にあり、今後も不足していくと考えられます。そのため、自治体はIT人材の確保に力を入れたり、内部で育成したりするなどの対応が求められます。

次に、コストを課題に挙げる自治体も多くいました。以下は、自治体がAIの導入や運用にかけているコストの分布です。

自治体がAIの導入や運用にかけているコストの分布
出典:総務省「自治体におけるAI・RPA活用促進」

0円でAIを導入している自治体も多く存在しましたが、前年の調査に比べるとその割合は減少しており、規模拡大を実施した自治体が多かったことがわかります。しかしながら、0円で導入できるAIツールはあるため、コスト面だけがネックなのであれば、無料ツールの導入も一つの手です。

3番目に多かったのが、「導入効果が不明」という意見です。自治体や企業のAI活用事例は徐々に増え、手軽に確認できるようになったため、自身の業務で活用できるものがないかを確認してみてはいかがでしょうか。

自治体や企業のAI導入事例は以下のような資料で確認できます。

参考:経済産業省「ビジネスの現場に役立つAI導入・活用事例集と契約実務・知的財産の手引き」
総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」
総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック」<別冊付録>

地方自治体における生成AI導入の流れ

地方自治体に生成AIを導入する一般的な流れは、以下の通りです。

  1. 事前検討
  2. 計画立案
  3. 事業者選定
  4. 導入
  5. 運用

その1:事前検討

事前検討では、AI導入により解決する課題を明確にします。課題の業務を分析し、どのようなAIを導入すれば、効果的な業務改善が図れるかを検討します。

課題の原因究明には、ロジックツリーが有効です。実際に、大阪府の四條畷市がAI導入を決めた際には、ロジックツリーを活用していました。

事前検討時の注意点として、あくまでAIは業務改善の一つの手段ということを認識し、AI活用が目的とならないようにしてください。業務改善の最適解がAI導入ではない可能性もあるので、無理にAIを導入しようとしないことが大切です。

その2:計画立案

課題が明確になれば、改善のための利用計画を立案します。特に、AI利活用原則に挙げられている以下の項目に注意しながら計画を立てましょう。

  • 安全性
  • セキュリティ
  • プライバシー
  • 公平性(不当な差別の防止)
  • アカウンタビリティ(透明性の確保)

そのほか、AIは誤った出力をすることがあります。AIのミスによる損失を防ぐため、最終的には人間がチェックする体制を構築しましょう。

また、AIモデルの構築や追加学習をする場合には、膨大なデータを扱うことがあります。プライバシー侵害などに注意しながら、AIモデルの性能を高めるためにも質の良いデータを収集しましょう。

その3:事業者選定

事前検討や計画を踏まえ、AI導入を依頼する事業者を選定します。経費を最小限に抑え、最大限の効果を得るためには、適正な調達方法を選択する必要があります。

入札方法概要
一般競争入札公示により不特定多数の競争を行わせ、自治体にとって最も有利な条件で提示した者を落札者とする
指名競争入札資金や信用、技術などが適切と認めた特定多数に通知し、その中で競争を行わせて自治体にとって最も有利な条件で提示した者を落札者とする
随意契約競争を行わせず、任意に特定の者を選定して契約を締結する
出典:総務省「地方公共団体の入札・契約制度」

透明性とコストパフォーマンスを最大化するためにも、可能な限り競争性を確保できるような方法で調達するようにしましょう。

また、AIの導入には高い技術が求められます。AI導入の目的を達成するためにも、必要な技術要件を満たしているかの判断は欠かさずに行いましょう。

その4:導入

導入の際には、すでに構築された学習モデルを追加学習なしで利用する場合と、新たにモデルを構築する場合が考えられます。

すでに構築された学習モデルを追加学習なしで利用する場合は、AIの構築や学習の必要がありません。ただし、既存システムからのデータの出力や、データの取り込みに関するシステム構築が必要になることもあります。

新たにモデルを構築する場合は、データを学習してAIモデルを構築し、必要に応じて精度検証や改善を行う必要があります。AIモデルから構築する場合は、カスタマイズ性が高く、目的に応じたシステムにできます。しかし、データの収集やモデルの構築に多くの時間がかかるため、費用や労力が大きくなりやすい点には注意が必要です。

その5:運用

AIモデルは、品質を維持するためにも定期的な点検やメンテナンスが必要です。運用開始後は、AIの精度や費用対効果、KPIの達成度などを目標と照らし合わせて評価しましょう。必要があればサービスを見直し、導入効果の検証を行います。

また、AIを継続的に利用するために、ランニングコストを下げられないか検討することも重要です。クラウドサービスを他の自治体と共同利用するなど、工夫次第では大幅なコストカットが実現します。

まとめ

大企業を中心にDX推進が取り組まれていますが、自治体でもAIやデジタル技術を活用する流れは活発化しています。特に、指定都市のような大きな自治体ではAIの導入が進んでおり、今後は高度な活用が進んでいくと考えられます。

技術進歩により、定型的な業務だけでなく、クリエイティブな業務にも活用できるAIが登場しているため、さまざまな業務効率化が図れます。従業員の負担軽減や付加価値向上のためにも、AIの導入を考えてみてはいかがでしょうか。

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