「DX推進は中小企業には難しい…。」
「DX推進なんて大企業にしかできないだろう…。」
と考えている方も多いのではないでしょうか。
実際、DXを推進するには大きな初期投資が必要になることがあり、資金力に乏しい企業にとっては難しい一面もあります。
しかし、DXに取り組んでいる中小企業は多くあり、業務効率化やコスト削減に成功している例もあります。
本記事では、経済産業省が主催する「DXセレクション2024」に選定された企業のうち、15の事例を紹介します。
DXセレクションに選定された企業は、経済産業省が優良だと認めたDX推進を行っているので、自社でも活用できるアイデアや施策がないか探してみてください。
中小企業のDX成功事例15選
- 浜松倉庫株式会社(倉庫業)
- 株式会社リノメタル(金属加工業)
- 株式会社トーシンパートナーズホールディングス(不動産業)
- 株式会社西原商事二ホールディングス(廃棄物処理業)
- 山口産業株式会社(製造業)
- 株式会社高山(DX支援)
- 株式会社ASAHI Accounting Robo研究所(情報・通信業)
- 株式会社高梨製作所(製造業)
- 福島コンピューターシステム株式会社(ソフトウェア業)
- 有限会社永井製作所(製造業)
- 田島石油株式会社(ガス・エネルギー業)
- 鶴見製紙株式会社(製造業)
- 株式会社ヒカリシステム(サービス業)
- 旭工業株式会社(精密板金業)
- 株式会社ダブルスタンダード
浜松倉庫株式会社(倉庫業)
浜松倉庫株式会社は、静岡県浜松市で倉庫・運送・駐車場などの事業を展開する企業です。同社は基幹システムやBIツールを活用することにより、生産性や従業員のDXに対する意識が向上しました。
同社は2015年より、若手を中心としたチームを構成し、生産性向上のための業務改善を図りました。具体的には、ロボット・AI・BIツール・新倉庫などを活用することでムダな作業の削減を図りました。
その結果、これまで1日の80%を占めていたデータ入力作業が、システムを活用することで1日の5%の時間で完了するようになりました。また、勘と経験で行っていた人員配置は、データを用いることで最適化できるようになり、生産性が30%向上しました。
結果的には、営業利益率が4.5%向上し、従業員のDXに対する意識改革にも成功しています。なお、この取り組みはDXセレクションでグランプリを受賞しています。
株式会社リノメタル(金属加工業)
株式会社リノメタルは、埼玉県八潮市で機能部品の製造や金属プレス加工を行う金属加工業者です。同社は「ミス・ムダ・属人化」から脱却するためDXを推進し、生産管理における「工数・ミス・ミス処理時間」の削減に成功しました。
同社は従来、製造以外の事務作業において、非効率性・伝達の不確実性・属人化という3つの問題が発生していました。これらを解消するため、5年間で28個のクラウドサービスを導入し、会社全体のDXを推進しました。また、製造現場にも1億円近くを投資し、生産管理システムを導入しています。
その結果、月間当たり268.6時間の工数・358件のミス・332時間のミス処理時間の削減に成功しました。この取り組みにより同社は、DXセレクションで準グランプリを受賞しています。
株式会社トーシンパートナーズホールディングス(不動産業)
株式会社トーシンパートナーズホールディングスは、東京都武蔵野市で不動産業を営む会社です。ノーコードツールやRPAを活用することで業務効率化を実現し、独自アプリやIoT技術を活用することで顧客サポートの活性化に成功しています。
同社は「不動産の新たな価値を創造し、一人ひとりの豊かな暮らしと、活力ある社会を実現する」というMissionを達成するためにはデジタル活用とデータ活用が必須だと考え、DXを推進しています。
具体的には、DXスキル向上のための社内研修を開催したり、AIを搭載したツールを活用して適正賃料生成モデルを作成したりして、組織づくりや業務効率化を図りました。
その結果、2023年は約7,868時間、2024年は約8,806時間の業務時間を削減しています。この取り組みは、DXセレクションで準グランプリを受賞しています。
株式会社西原商事ホールディングス(廃棄物処理業)
株式会社西原商事ホールディングスは、福岡県北九州市で廃棄物の収集・運搬や、リサイクルを行う会社です。同社は、廃棄物管理システムを内製することによりDXを推進し、業界全体のデジタル化を進めています。
同社は2007年、情報を集約化してトレーサビリティを徹底するために、廃棄物管理システムを自社開発しました。その後も、97%以上のドライバーの働きやすさを向上させた廃棄物処理業者向けのアプリケーションを開発するなど、DXに取り組み続けています。
同社は、この取り組みによりDXセレクションで準グランプリを受賞しています。
山口産業株式会社(製造業)
山口産業株式会社は、佐賀県多久市で膜構造建築物や合成繊維などの製造・販売を行う会社です。デジタル技術やシステムを導入することにより、全部門の工程を効率化し、生産性を向上することに成功しました。
同社は、不安定な世界情勢やパンデミックなどにデジタル技術で対応してきた経験から、今後の社会情勢やビジネス環境への急激な変化にも柔軟に対応できるよう、DXを推進しています。
具体的には、DX人材育成を社内プロジェクト化してDX人材を確保し、月次経営会議でDXを定期議題にしてDX推進に適したガバナンスシステムを構築しています。また、5年間で40以上ものツールを導入したことで、生産性が大幅に向上しました。
同社はDX推進をすることで、生産性が向上しただけでなく、自社の問題点や将来像にも気が付くことができたようです。この取り組みにより同社は、DXセレクションで準グランプリを受賞しています。
株式会社高山(DX支援)
株式会社高山は、DX支援やセキュリティ対策を行うIT企業です。同社はDX推進により非生産的な業務を削減することで、売上・顧客数・平均残業時間・社内満足度など多くの指標を向上・改善しています。
同社は従来、文房具業を営んでいましたが、コロナウイルスの流行や業界の衰退を考慮した結果、DX関連事業に転換しました。自社では、営業支援ツールや販売管理システム、生成AIなど多くのツールを活用してデータ経営を徹底し、DXのノウハウを蓄積しています。
システムに不慣れな社員の理解を得ることに苦労しましたが、結果的には労働時間の削減や、報酬アップが実現し、社員の満足度を向上することに成功しました。また、DX推進により魅力的な企業になったことで、年間の採用応募数が10倍以上に、顧客数も2倍以上に増えたようです。
株式会社ASAHI Accounting Robot研究所(情報・通信業)
株式会社ASAHI Accounting Robot研究所は、山形県山形市でAI活用やDX推進を支援するIT企業です。税理士法人あさひ会計で進めたRPAを日本全国の中小企業に広めるため、RPAの導入や運用を支援しています。
同研究所は、会計事務所から事業化したため、RPAの導入に対する知見が浅い状態からシステムを自社で構築しました。これは、ボトムアップにより広く案を集め、トップダウンにより迅速に意思決定する体制を取っているため、最短で開発を進められています。
現在は、単純作業や時間のかかる作業はロボットに任せることで、従業員は人にしかできない業務に注力できるようになっています。また、自動化で削減できた時間は学びに充てるなどの余裕ができ、楽しく仕事ができているようです。
株式会社髙梨製作所(製造業)
株式会社髙梨製作所は、山形県西村山郡河北町でプラスチックの射出成形や金型製作を行う製造業者です。同社はDX推進により、生産性の向上や業務の省力化を実現しています。
同社は、会社の所在地である山形県の人口減少は深刻化し、これまでの業務体制を維持するのは困難だと考えました。そこで、工場の自動化を図り、従来よりも少人数で稼働できる工場を目指しました。
同社は、DX推進のための費用が高くなりすぎないよう、コストパフォーマンスの観点から機能の検証を行い、自社に最適なシステムを導入しました。
現在では、システムの導入により社外からでも工場の状態が確認できるようになったため、工場が無人で稼働できるようになっています。これにより、生産状況を記録・トレースできるようになったことに加え、従業員の負担が軽減して働きやすい環境も構築できているようです。
福島コンピューターシステム株式会社(ソフトウェア業)
福島コンピューターシステム株式会社は、福島県郡山市でシステム開発を行うIT企業です。同社は、DXやAI活用を推進することで業務効率を向上し、全従業員のテレワークも可能にしています。
同社は、コロナ禍で会社を存続させるには業務の進め方を刷新する必要があると考えました。そこで、契約書や請求書の管理、契約の審査などのあらゆる業務をデジタル化することで、業務効率の向上を図りました。
その結果、紙の使用量は46.8%、電力の使用量は17.3%削減するなど、ムダを省くことに成功しています。また、AI-OCRを活用した新たな事業も展開するなど、先端技術を活用したビジネスも進めているようです。
有限会社永井製作所(製造業)
有限会社永井製作所は、 群馬県邑楽郡邑楽町で金属プレス金型の設計製作を行う製造業者です。同社は、DXを推進することにより人材育成の短期化と生産性の向上を実現しています。
同社は、急速に変化する社会情勢から、自社の未来が明確に描けない状況に危機感を持っていました。そんな中、2023年のDXセレクションの準グランプリを獲得した社長との出会いもあり、DX推進に取り組むことを決断しました。
同社は、属人化していた金型づくりを、デジタル技術を活用して改革し、熟練技術者がいなくても業務を回せるような体制の構築を目指しました。
その結果、人材育成の期間が80%短縮し、請負能力は1.5倍に向上しています。デジタル技術により業務が可視化されたことから、経験の浅い従業員が中心の現場でも高い品質の業務を実施できているようです。
田島石油株式会社(ガス・エネルギー業)
田島石油株式会社は、埼玉県狭山市でエネルギー事業を営む会社です。DXを推進することで属人化していた業務をなくし、効率化と省力化を実現しています。
同社は、2025年問題による労働力不足に対応するため、DX推進により労力の削減を図りました。具体的には、社内にDX推進チームを設置し、DX推進のための戦略「ステップアップDX」を策定しました。また、クラウドサービスの表計算ツールを活用して、在庫や発注状況などを管理し、データの可視化を実現しています。
同社は結果的に、業務改革と表計算ツールにより年間500万円の人件費を削減することに成功しました。
鶴見製紙株式会社(製造業)
鶴見製紙株式会社は、埼玉県川口市でトイレットペーパーの製造・販売を行う製造業者です。DX推進により、属人化の解消やデータの可視化を実現し、効率的な生産管理を実現しています。
同社は以前から、一部の部門で情報システムの活用によりデジタル化を図っていましたが、全社展開が必要だと考え、DXを推進することになりました。全社的にDXを推進するため、部門ごとにDX推進を担う人材を設置し、全社的な取り組みが進められました。
また、DXに必要なシステムやリソースを確保するため、売上の1%を目安に予算を設けたそうです。
その結果、業務プロセスの改善による属人化の解消と、進捗の可視化による生産管理の効率化に成功しています。また、システムの勉強会のほか、社長が主催する勉強会や経営会議でもDXに関する議論が行われているようです。
株式会社ヒカリシステム(サービス業)
株式会社ヒカリシステムは、千葉県千葉市で温浴・宿泊施設やアミューズメント施設の運営、ITコンサルティングを行う会社です。デジタル技術を活用した情報共有・戦略立案・判断の迅速化・付加価値向上を目的にDXを推進しています。
具体的には、社内研修と外部研修でITの知見を蓄え、現場レベルでもシステムを使いこなせるような体制を構築しました。また、幹部レベルの経営会議や報告会でもDX推進を議題にし、戦略の見直しや情報共有を行っています。
その結果、PDCAサイクルが素早く回せるようになり、顧客により多くの付加価値を提供できるようになっています。また、利益水準はパンデミック以前まで回復し、温浴事業やIT関連事業は過去最高を記録しているようです。
旭工業株式会社(精密板金業)
旭工業株式会社は、東京都荒川区に本社を構える液晶半導体や電力インフラなどの機器を取り扱う総合金属加工メーカーです。事業を成長させるには、デジタル化による業務最適化が必要だと考え、DXを推進しています。
同社は、DXを推進するために情報処理環境を見直し、情報の可視化を図りました。これまで見えていなかったことが、生産管理システムや社内ソフトなどでいつでも確認できるようになったため、業務改善が図りやすくなっています。また、従業員自身の成長も見えるようになり、モチベーションアップにも寄与しています。
DXの実施により、情報が定量化できるようになり、どのような作業をすれば品質や作業スピードが向上するかが明確になりました。その結果、QCDが向上し、取引先の企業から高い評価を受けられるようになったそうです。
株式会社ダブルスタンダード
株式会社ダブルスタンダードは、東京都港区でビッグデータの生成・提供、システム開発などを行うIT企業です。同社のサービスの一つであるDX推進ソリューションの品質を上げるため、自社でもDXを推進しています。
具体的には、独自のデータクレンジング技術やAI-OCR技術を活用することにより、業務プロセスの改善を図りました。その結果、自動化した業務は前年度に比べて20%増加し、DX支援の顧客満足度は60%向上しました。
また、自社のDX推進ソリューションを実際に導入したことで、新たな課題を発見することもできているようです。これらを改善することで、DX関連事業の売上は、前年度に比べて30%増加しています。
中小企業のDX取り組み状況は?
中小企業は、全体的にDXが取り組まれていない傾向にあります。中小企業基盤整備機構が令和5年に発表した調査によると、DXに取り組んでいる企業は14.6%、取り組みを検討している企業と合わせても31.2%に留まっています。
前年の2022年(図に内円)よりはDXに取り組む企業が増えていますが、7割の企業はDXに取り組めていないことがわかります。
参考:中小企業基盤整備機構「中小企業の DX 推進に関する調査(2023 年)アンケート調査報告書」
IPAの調査によると、会社の規模が大きくなればなるほど、DXに取り組む企業が増えることがわかっています。
この状況は、大企業と中小企業の格差を広げる要因になると考えられます。DXを推進した企業は業務効率化や省力化が進み、浮いた資金でさらなる業務改革が図れます。
一方で、DXに取り組めなかった企業は、効率の悪い方法で業務に取り組み続け、効率化・省力化が図れないために品質や価格で大企業に後れを取ることとなります。
このような事態に陥らないためには、小さな規模でも可能な範囲のDXに取り組むことが重要です。
中小企業がDXに取り組むにあたっての課題とは?
中小企業は、DX推進において以下のような課題を抱えています。
- IT・DX人材が足りない
- DXに費やす時間がない
- DXにかける予算がない
IT・DX人材が足りない
そもそもIT・DXを推進できる人材がおらず、DXを推進できない課題があります。
中小企業基盤整備機構の調査によると、DXに取り組むにあたっての課題として最も多かったのが「ITに関わる人材が足りない」で28.1%でした。次いで「DX推進に関わる人材が足りない」が27.2%と、人材不足が上位2つの課題を占めることとなりました。
これより、中小企業のDX推進において、人材不足が最も大きな課題ということがわかります。
DXに費やす時間がない
日々の業務をこなすのが精一杯であり、新しい技術やプロセスを学ぶ時間がない場合、DXの推進まで回らないことが多いでしょう。しかし、DXを推進できなければ業務効率化が進まず、効率の悪い方法で業務をこなし続けることになります。
この状況を放置してしまうと、DXを推進した企業との格差が拡大し続け、生産活動を続けることが困難になります。
DXにかける予算がない
DX推進には少なからずコストがかかります。例えば、業務効率化のためのシステムやツールの購入や、コンサルティングなどが挙げられます。
安価に利用できるシステムやサービスばかりではないため、導入が難しいと感じている企業も多いでしょう。実際、中小企業基盤整備機構の調査では、DXに取り組むうえでの課題として「予算の確保が難しい」と回答した企業は24.9%います。
DX推進にはコストがかかるうえ、その恩恵はすぐに受けられるものばかりではないため、予算の計算が難しいという問題もあります。
中小企業のDXで悩みがちなIT人材不足の解消方法とは
中小企業は、以下のような項目を改善することで、IT人材の不足を解消できます。
- 人材像の設定・周知
- 人材の獲得・確保
- キャリア形成・学び
- 評価・定着化
- 企業文化・風土
それぞれの具体的な解消方法を解説します。
人材像の設定・周知
採用や育成の指標とするためにも、自社が理想とする人材像を設定しましょう。これにより、どのような人材を獲得すべきかが明確になるため、採用や育成時の評価がしやすくなります。
また、理想の人材像を社内に周知することで、目指すべき人材像が明らかになり、企業が理想とする成長が生まれやすくなります。
人材の獲得・確保
すでに能力のある人材を採用することで、すぐにDX推進が始められます。素早くDXに取り組み始めたい企業に適した方法です。
具体的には、転職サービスで採用活動をしたり、社員紹介制度を導入したりして即戦力となる人材を獲得します。IT業界では人手不足が深刻化していることもあり、優れた能力や実績を持つ人材を採用するには、高い人件費がかかる点には注意が必要です。
キャリア形成・学び
長期的にDXを推進できるIT人材を社内に抱えるには、IT人材を育成する機会や制度が必要です。具体的には、以下のような取り組みが有効です。
- 社内外の研修プログラムの充実
- OJTを通じたスキル取得機会の提供
- 資格取得支援制度の策定
学習の機会を企業から提供することで、DXに興味を持つ従業員が増え、自発的な学びが生まれることもあるでしょう。
評価・定着化
従業員のモチベーションを高めるためにも、IT人材の評価基準を明確にし、適切なフィードバックを行う必要があります。能力のある従業員が適切な評価を受けられるようになり、自社への定着化が図れます。
評価体制が適切に構築されていないと、評価が低い能力のある従業員が活躍の機会を求め、他社へ転職してしまうかもしれません。優秀な人材を自社に留めるためにも、評価基準を明確にし、適切な評価体制を構築しましょう。
企業文化・風土
IT人材が最大限の能力を発揮するためには、DXに適した企業文化・風土を醸成する必要があります。例えば、以下のような例が挙げられます。
- 失敗を許容する文化の醸成
- トップダウンでのDX推進メッセージの配信
- デジタルツールの積極的な導入と活用の推進
これらの実施により、DXを推進しやすい環境ができ、IT人材が積極的にDXを推進できるようになるでしょう。
まとめ
中小企業のDX推進は、大企業に比べると後れを取っていますが、取り組みや検討を始める企業は増えています。比較的安価にデジタル技術が導入できるようになってきたこともあり、DX推進に取り組む中小企業は増えると考えられます。
DXにより、効率化や付加価値の創出などが実現すれば、よりよいサービス・商品の提供ができるようになります。企業の価値を上げるためにも、まずは小さなDXからでも始めてみてはいかがでしょうか。