製造業における工場の生産性向上のポイントとは？成功事例も紹介

日本の製造業は今、岐路に立たされています。かつての経済大国の面影は薄れ、G7諸国の中で最低の労働生産性に甘んじているのが現状です。

多くの製造業者は、レガシーシステムへの依存や国際競争力の低下、そして深刻な人材不足に悩まされています。低い生産性の脱却の鍵を握るのがIT活用です。近年、成長著しいデジタル化の波に乗ることで、大幅な生産性向上が期待できるでしょう。

本記事では、ERPパッケージ、RPA、IoTなどの最新のデジタルツールを活用した生産性向上の方法を詳しく解説します。さらに、実際にデジタル化に成功し、生産性を飛躍的に向上させた企業の事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

国内の労働生産性の現状

製造業における生産性向上について解説していく前に、日本の現状について確認していきたいと思います。日本はかつて、GDPで世界第2位を誇り、製造業を中心に経済大国として発展してきました。しかし、現在ではG7諸国の中で労働生産性が最も低い水準にあります。

製造業における技術革新や国際競争力の低下、さらに少子高齢化による労働力不足が、この現状を招いています。これからの日本経済が持続的に成長するためには、生産性の向上が急務であり、デジタル化や労働力の確保といった課題に取り組む必要があります。

なぜ製造業の労働生産性が上がらないのか

製造業の労働生産性が上がらない要因とはなんでしょうか。主な要因として、レガシーシステムへの依存や国際競争力の低下、少子高齢化による人材不足といった観点で解説していきます。

レガシーシステムに依存している

日本の製造業が労働生産性向上に苦戦している主な要因の一つは、レガシーシステムへの依存です。特に多くの中小企業では、古いシステムが長年にわたり使われ続けており、これが生産性向上の大きな障害となっているケースが少なくありません。

システムの刷新が必要であるにもかかわらず、高額な切り替えコストや限られた予算が壁となり、新しい技術の導入が遅れています。その結果、業務プロセスの効率化が進まず、企業の競争力が大幅に低下しているのが現状です。

今後は、より柔軟で効率的なシステムへの移行が急務であり、これを実現するための投資が必要不可欠となっています。

国際競争力が低下している

かつて、日本の製造業は「安い」「高性能」「大量生産」という強みを活かし、世界市場で圧倒的な競争力を誇っていました。しかし、現在ではその状況が一変し、国際競争力が大幅に低下しています。

主な要因として、海外メーカーの製品力向上や円安、半導体不足に起因するコスト増加、さらに新興国の製造業の急速な成長が挙げられます。

これらの要素が重なり、日本の製造業は従来の優位性を失いつつあります。こうした状況を打破するためには、技術革新と効率化を推進し、グローバル市場で再び競争力を取り戻すことが求められています。

少子高齢化による人材不足

日本では少子高齢化が急速に進行しており、その影響は製造業にも深刻な影を落としています。労働力不足が深刻化しており、特に若年層の減少が顕著であるため、必要な人材を確保することが難しくなっています。

これにより、熟練工の不足や新しい技術を取り入れる人材の育成が遅れており、結果として生産性向上が妨げられています。さらに、若手人材の定着率が低下していることも問題です。

この課題に対処するためには、労働力の補完としてのデジタル化や自動化技術の導入が不可欠であり、同時に働きやすい環境を整えることが求められています。

今こそ製造業が労働生産性向上に取り組むべき理由

なぜ今製造業において労働生産性向上が求められているのでしょうか。労働生産性向上に取り組むべき理由として、利益拡大や優秀な人材を確保するため、品質向上やトラブルを防ぐためという観点から解説します。

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コストを抑え、利益を拡大するため

製造業が労働生産性向上に取り組むべき理由のひとつは、コストを抑え利益を拡大することです。企業が生産性を高めることで、第一に無駄なコストを大幅に削減することが可能になります。

例えば、生産工程における効率的なリソース配分や人員の最適化によって、同じ資源でより多くの製品を生産できるようになります。これにより、単位あたりの生産コストが低下し、結果として利益率の向上が可能です。

労働生産性向上は、単なるコスト削減の手段にとどまらず、企業全体の持続可能な成長を支える重要な要素であると言えるでしょう。

人材不足を解消し、優秀な人材を確保するため

生産性の向上は、人材不足の解消にも大きく貢献します。効率的な生産プロセスを導入することで、限られた人材でも高い生産量を維持できるため、人手不足の解消に繋がります。

さらに、業務の効率化により従業員の負担が軽減されることで、優秀な人材の定着や確保が可能です。

特に、生産性が高く無駄のない職場環境は、最新の技術や効率的な働き方を重視する若手にとっても魅力的に映るため、新たな人材の採用に好影響を与えます。優秀な人材を確保することで、企業の競争優位性を向上させることができるでしょう。

従業員の業務負担を軽減し、離職率を下げるため

労働生産性の向上は、従業員の業務負担を軽減し、離職率を下げる効果があります。業務が効率化されることで、従業員が無駄な作業に時間を割かれることが減り、より重要な業務に集中できる環境が整います。

仕事に対する満足度が高まり、ストレスが軽減されることで、働きやすい職場環境が実現するでしょう。さらに、非効率な業務が少ないことは従業員のモチベーションを高め、長期的にキャリアを築いていくことへの意欲を促進できます。

結果として、従業員の離職率が低下し、企業は安定した労働力を確保することが可能です。安定した労働力は、企業にとって持続的な成長を支える重要な要素であり、業務の効率化はその基盤を強化する手段となります。

品質向上やトラブルを防ぐため

労働生産性を高めることは、製品の品質向上やトラブルの防止にも直結します。効率的な生産プロセスを構築することで、作業ミスや工程上のトラブルを減少させることができ、結果として製品の品質を向上させられるでしょう。

高い品質の製品を安定して提供することは、顧客満足度を高めるだけでなく、企業の信頼性を強化することにもつながります。さらに、品質管理の強化により、不良品やリコールのリスクを最小限に抑えることができ、コスト削減が可能です。これにより、企業全体の競争力が向上し、長期的な成長が期待できるようになります。

工場の生産性向上につながるデジタルツール

工場の生産性向上につながるデジタルツールとして、代表的なツールを8つご紹介します。

ERPパッケージ

ERP（Enterprise Resources Planning）とは、企業資源計画の略であり、経営資源を統合的に管理するシステムです。これにより、各部門の業務が一元化され、情報の流れがスムーズになります。特に、生産計画や在庫管理、財務管理などがリアルタイムでデータ共有されるため、迅速かつ正確な意思決定が可能です。

また、ERPは業務プロセスの標準化を促進し、無駄や重複を排除することで、業務全体の効率化が図られます。これにより、リソースの最適化が実現し、企業全体の競争力が向上することが期待できます。

RPA

RPA（Robotic Process Automation）は、製造業において定型業務の自動化を進めることで、生産性を飛躍的に向上させるツールです。

RPAは、従来人手で行っていたルーチン作業をソフトウェアロボットが代行することで、作業のスピードと正確性が向上します。例えば、データ入力や集計、レポート作成などの反復作業を自動化することでミスが減少し、作業時間が短縮されます。

これにより、従業員はより創造的で付加価値の高い業務に専念でき、企業全体の生産性が向上します。また、RPAは比較的短期間で導入効果が現れるため、即効性のある改善手段として注目されています。

プロジェクト管理ツール

プロジェクト管理ツールは、製造業においてプロジェクトの効率的な運営と生産性向上を支える重要なツールです。プロジェクトの進捗状況をリアルタイムで把握でき、優先順位付けやリソース配分を適切に行うことができます。

とりわけ、近年の製造業では小ロットかつ短納期での生産を求められることも増えています。そうした中で、リードタイムを短縮するためにも各工程がどのような状態かを把握することが重要です。

プロジェクト管理ツールによって進行状況を可視化し、無駄のない稼働を実現できます。

ペーパーレスツール

ペーパーレスツールの導入は、製造業におけるデジタル化の一環として、生産性の向上に寄与します。従来の紙ベースの文書管理は、時間と手間がかかり、紛失や情報漏洩のリスクも伴いますが、ペーパーレスツールを使用することで、これらの問題が解消されます。

具体的には、文書の電子化により検索性や共有性が向上し、必要な情報に迅速にアクセスできるようになります。また、情報の更新やバージョン管理が容易になり、常に最新のデータに基づいて業務を進めることが可能です。

デジタル帳票ツール

デジタル帳票ツールは、従来の紙ベースの帳票管理を革新的に変えるツールであり、製造業における業務効率の大幅な向上に貢献します。

帳票のデジタル化により、データ入力や検索が迅速かつ正確に行えるようになり、手作業によるミスが減少します。また、デジタル帳票はリアルタイムで更新されるため、常に最新の情報を基にした判断が可能です。

さらに、データの集計や分析が容易になり、経営判断のスピードと精度が向上します。これにより、業務の無駄が減少し、生産性の向上が実現されます。

勤怠管理システム

勤怠管理システムの導入は、労働時間の効率的な管理と生産性の向上に大きく寄与します。従来の手動による勤怠管理は、記録ミスや不正確なデータの原因となりがちです。それが、システム化することで従業員の出勤状況や残業時間を正確に把握できるようになります。

適切な労務管理が可能となることで、無駄な労働時間の削減や従業員の過労防止に効果を発揮します。また、勤怠データの自動集計により、給与計算が効率化されるため、管理部門の負担も軽減されます。

採用管理システム（ATS）

採用管理システム（ATS）は、効率的な人材採用を実現するための重要なツールです。応募者情報の一元管理を通じて、採用プロセス全体をスムーズに進行させることが可能です。

これにより、各候補者の選考進捗や求人媒体ごとの効果状況を共有し、迅速かつ適切な判断が可能になります。また、応募者への対応が円滑になることで、信頼関係の構築や企業のイメージアップにもつながります。

さらに、採用プロセスの自動化により、面接スケジュールの調整や選考結果の通知が効率化され、採用業務の負担が軽減されます。このように、ATSの導入は企業の採用活動を効率化し、優秀な人材を確保するために欠かせないツールです。

IoT

IoT（Internet of Things）の活用は、製造業における生産性向上に革新的な効果をもたらします。

工場内の機器や設備をネットワークで接続することで、リアルタイムでのデータ収集や分析が可能になります。これにより、設備の稼働状況や生産ラインのパフォーマンスを常に把握し、最適な運用が実現されます。

また、故障やトラブルの予兆を早期に検知することで、メンテナンスのタイミングを最適化し、ダウンタイムを最小限に抑えることが可能です。さらに、IoTを活用することで、エネルギー消費の最適化や資源の無駄削減が可能になり、環境負荷の軽減にも寄与します。

デジタル化の推進により生産性が向上した事例

製造業界において、デジタル化の推進により生産性の向上を実現した5社の事例をご紹介します。

三共電機株式会社

三共電機株式会社は、デジタルツールの導入により、飛躍的な生産性向上を実現した企業です。

同社の主力製品である制御盤は一点モノで、制御部品以外にも2,000種以上の太さや長さ、材質が異なるケーブルやネジ等を組み合わせて製造を行っています。その結果、紙による工程・部品管理の事務業務が多く、開発・製作時間を圧迫していました。

そのため、PowerAppsやMicrosoft BIツールの活用によって、データの集約とみえる化、業務プロセスの最適化を進めました。

結果として、残業時間が全体の10%分である1,500時間減少し、製品の幅も広がりました。また、若い技術者の採用も行うことができ、技術者の若返りも実現しています。

参考：デジタル技術を活用した新ビジネスモデル構築 先進事例 公益財団法人科学技術交流財団

大野ナイフ製作所

大野ナイフ製作所は、IoTを活用したリアルタイムのデータ管理に取り組んでいます。これにより、製造過程でのデータ収集が迅速かつ正確に行われ、トラブルの早期発見と迅速な対応が可能となっています。

例えば、製造ラインでの異常検知や機器の異常動作をリアルタイムで把握し、問題が大きくなる前に対処することが可能です。この結果、製品の品質向上が実現し、顧客満足度の向上にもつながりました。

結果として、OEM生産を行っている海外向け包丁ブランド「旬」は、国内外で約280アイテムを展開し、月間製造本数が15％、月間売上高は20％増加しています。

参考：デジタル技術を活用した新ビジネスモデル構築 先進事例 公益財団法人科学技術交流財団

エイベックス株式会社

エイベックス株式会社は、超精密切削・研削技術を有する企業で、自動車関連部品や建設機械部品などを製品化しています。「自前化を極め、世界的競争力を確立すること」を標榜し、工場のIoT化やロボット、IoTによる自働化を推進してきました。

検査工程での画像処理技術の導入や生産管理システムにおける設備稼働状況の把握、検査工程でのリアルタイムでの不良品データ把握などみえる化やデジタル化が進められています。

その結果、生産性向上に伴い概算で年間8,000万円程の経済効果が得られているとのことです。また、デジタル技術を活用したスマート工場である「桑名先進工場」では、より複雑な製品の生産にも適用できています。

その他、デジタル化により装置の取り扱いが簡略化でき、女性や高齢者、障がい者などの労働環境改善にも貢献しています。

参考：デジタル技術を活用した新ビジネスモデル構築 先進事例 公益財団法人科学技術交流財団

株式会社有本電器製作所

加茂市に位置する有本電器製作所は、多品種少量生産を支える60歳以上のベテラン従業員が多く在籍する企業です。

有本電器製作所では、納期管理の不正確さや生産進捗の可視化が困難という課題を抱えていました。また、パッケージソフトを導入した経験がありましたが、高齢従業員にとって使いづらく失敗に終わっていた経緯があります。

その後、AI音声入力システムを導入したところ、進捗管理がリアルタイムで可能となり、残業時間を約2割削減することに成功しました。また、収集されたデータを活用して、従業員の作業効率の向上や付加価値額の交渉材料として活用し、平均20％の付加価値額向上も実現しています。

デジタル技術の導入により、従業員全員が業務に対する意識を変え、企業全体の生産性が向上しました。

参考：デジタル化で生産性向上を図る中小製造業

株式会社インタフェース

株式会社インタフェースは、増加する注文に対応しつつ競争力を維持するため、デジタル化を推進しました。

背景には、産業用コンピューターの受注増加と納期短縮の課題があります。同社は、ロボットの自社開発による生産工程の50%の自動化と全社情報システム「RAQJAN」の導入を通じて、効率的な生産と情報管理を実現しています。

結果として、納期短縮やトレーサビリティの向上、従業員スキルの可視化と人材配置の最適化が達成され、生産性を大幅に向上させることができました。

参考：デジタル化で生産性向上を図る中小製造業

まとめ

日本の製造業が労働生産性を向上させるためには、デジタルツールの導入が不可欠です。レガシーシステムの刷新や国際競争力の回復、少子高齢化による人材不足への対応として、デジタル化が強く求められています。

今回ご紹介した成功事例も参考にしながら、デジタル化を積極的に推進し、持続可能な成長を目指していきましょう。