PCやインターネットは1990年後半から利用率が急速に上昇し、今やビジネスシーンでは欠かせないツールとなりました。さらに、現代ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性が説かれ、生成AIが一般的に使われるようになり、企業のデジタル活用はますます重要性を増しているといえるでしょう。
しかし、そうしたなかデジタル化の波に乗り切れていない企業が多いのも事実です。「なぜ自社はデジタル化できないのだろう」「どのようにデジタル化を進めればいいのだろう」と悩みを抱える中小企業の経営者も多いでしょう。
この記事では、実際にクライアントのシステム開発を推進している弊社が「企業がデジタル化できない原因」について解説します。まずはデジタル化できない根本的な原因を理解し、デジタル活用に取り組みましょう。
デジタル化とは?
デジタル化とは、ビジネスや生活のなかで用いていたアナログな手段・プロセスを、デジタルツールに変えることを指します。デジタル化は大きく分けると「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」に分けられます。
デジタル化を実現するには、まずはデジタイゼーションに着手し、その後にデジタライゼーションに着手するというように、段階を踏むことが大切です。ここでは、デジタイゼーションとデジタライゼーションの概念をそれぞれ詳しく解説します。
デジタイゼーションとは?
デジタイゼーションとは「特定の業務効率化のためにデジタルツールを導入すること」です。デジタイゼーションの概念は、古くからあります。例えば、洗濯板が洗濯機に変わったこともデジタイゼーションの一つです。
その他、近年では「ペーパーレス」の文脈でデジタイゼーションが取り上げられます。契約書は紙からPDFになり、印鑑ではなくWeb上のスタンプで代用できるようになりました。
これにより「出社の必要がなくなる」「契約書の手続きを高速化できる」などの効果があり、生産性が大きく向上します。
参考:総務省「デジタルトランスフォーメーション、デジタイゼーション、デジタライゼーション」
デジタライゼーションとは?
デジタライゼーションとは、特定の一業務だけでなく「業務全体のプロセス・フローをデジタル化すること」です。これには自社内にとどまらず、パートナーや顧客などの外部環境までを巻き込んでデジタル化することも含まれます。
例として「RPAによる物流業務の自動化」を挙げましょう。RPAは一部の業務だけでなく業務フロー全体に寄与するものです。パートナーの働き方も効率的になります。荷物を待つ消費者にも影響を与えます。
ひとつの業務だけでなく、業務プロセス全体をデジタル化することで、ステークホルダー全体の仕事が変わるわけです。
参考:総務省「デジタルトランスフォーメーション、デジタイゼーション、デジタライゼーション」
混同されやすいデジタル化とDX。どう違う?
また、近年デジタル化と混同されやすい言葉として「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」があります。DXとデジタル化の違いは「目的」です。
デジタル化は「業務効率化のために業務やプロセスをデジタルに置き換えること」を指します。一方でDXの目的は「企業の競争力の向上」です。
競争力向上のなかで「業務効率化」は一部に過ぎません。例えばアナログ製品をデジタル化することで、売上向上につながるケースもあります。
Amazonが分かりやすい例です。Amazonの登場により、リアルの書店ではなく、EC上で売買するようになりました。
購買プロセス全体をデジタル化することにより、店舗も消費者もデジタルツールを使うようになったわけです。業務効率化はもちろん、Amazon社も各店舗の売上が高まるなど、広い意味で「競争力向上」につながっています。
つまり、「DX(競争力向上)」という大きな枠組みの一部として、デジタル化(業務効率化)が存在するといえるでしょう。
デジタル化が遅れる原因
このように、デジタル化することで企業の業務効率化が実現されます。しかし変革が遅れている企業も多いのは事実です。なぜデジタル化が遅れるのでしょうか?その原因はいくつか挙げられますが、それぞれ詳しくみていきましょう。
スキルを持った人材が不足している
デジタル化のためには、デジタルツールの導入、プロセス全体のデジタル化が必要です。そのため、アプリケーションやシステム開発に関する知識が必要となります。
こうしたデジタル知識がある人材がいないと「デジタル化することによる効果」を可視化できません。その結果、デジタル化が進まないケースがあります。
弊社・ファンリピートではデジタル化による効果の試算からお手伝いできます。スキル・ナレッジが社内におらず困っている企業はお気軽にお問い合わせください。
難色を示す人が一定数いる
長くアナログ業務に慣れ親しんだ業界、企業によってはデジタル化に懐疑的な方もいます。例えば建設業、医療・介護職、飲食業など、オフラインで仕事をする方々の中には、「デジタル化によって自分たちの仕事が失われる」と難色を示す可能性もあるでしょう。
1962年、アメリカ・スタンフォード大学の社会学者 エベレット・M・ロジャース教授は、イノベーター理論の中で、変化への適応が遅れる人々のことを「ラガード」と呼びました。ラガードが上層部にいる場合、企業の変革が遅れてしまいます。
経営者のITリテラシー不足
経営者がデジタル化についていけていない可能性もあります。
ボトムアップで提言できる企業であれば、現場の大変さが経営に反映されます。しかしトップダウンの文化で、かつ経営者にリテラシーがない場合、デジタル化の必要性すら認識できません。
例えば、航空会社スカイマーク会長の佐山氏は、「ITを使ってやりたいことはどんどん浮かぶのに、一体どれくらい難しいのかが分からない。その見当が付くようにしたかった」という考えから、プログラミング教室にて一からプログラミング学習を行いました。
参考:日経クロステック|スカイマーク会長がRuby on Railsを学ぶ理由
多くのコスト・労力がかかる
デジタル化に移行するタイミングでは、多くのコスト、労力がかかるのは事実です。そのため変革に億劫になってしまうケースがあります。
デジタルツールの多くは、クラウド型・オンプレミス型問わず、初期費用がかかります。場合によっては数百万円単位の費用が必要です。
また費用的なコストだけでなく、社内の従業員の仕事量も一時的に増えます。費用として換算すると人件費が膨れ上がることがあります。
例えばデジタイゼーションをする場合、アナログのツールをデジタルツールに変更する必要があります。そのため、社内全体のオペレーションを変えなければいけません。従業員によってはレクチャーの時間を設ける必要があります。
例えば、紙の契約書を電子契約に変える際には以下のタスクが発生します。
- 現行の契約書のデジタル化
- 電子契約システムの選定
- 人件費などのコスト削減目標設定
- 既存オペレーションの変更・社内周知
- システム設定とカスタマイズ
- データ移行
- 利用者のトレーニング
- 運用テスト
- 法的要件の確認
- セキュリティ対策
- 契約書の運用開始
- 目標の観察、継続的な改善
ただし、一度導入した後は永続的にコストカットできるのも事実です。導入コストの重さが足枷となってデジタル化に踏み切れないことは多々あります。
セキュリティ面でのリスクが生じる
デジタル化によるセキュリティリスクは、以前と比べるとかなり低減されましたが、それでもゼロとはいえません。
オンラインストレージを利用してデータを保存する形へ移行すると、第三者による情報盗取・改ざん・破壊されるリスクがあります。
例えば、最近だと出版大手のKADOKAWAが大規模なサイバー攻撃を受けました。ランサムウェアによって複数サーバーのデータが暗号化され、子会社のドワンゴが運営する「ニコニコ動画」などがサービス停止に追い込まれたのは記憶に新しいことでしょう。
こうしたセキュリティリスクを嫌って、アナログ業務を続ける例は多くあります。
デジタル化が遅れている原因の解決策
これらのデジタル化が遅れてしまう原因に対して、どのようなアクションを取れば解決できるのでしょうか。4つの解決策を紹介します。
デジタルツールに慣れてもらう
「スキルを持った人材の不足」などの原因に対しては「まず使ってもらう」という解決策が有効です。
デジタルツールは積極的に使わないと慣れません。また利用することで利便性に気づけるはずです。その結果、社内にITスキルを持つ人材が増えたり、経営層の意識が変わったりする可能性があります。
デジタル化が進むメリットを知ってもらい、意識改革
「デジタル化に難色を示す方がいる」という課題に対しては、この方法が有効です。アナログ業務をデジタル化することで、多くの場合、きちんと業務効率化につながります。
現場のメンバーにラガードがいる場合、デジタル化することで仕事が楽になることを訴えましょう。実際に「週2日はデジタル業務、3日はアナログ業務」と、比較しながら仕事をすることで、便利さを体感できます。
上層部にラガードがいる場合は、デジタル化した際に削減される人件費を試算して見せることで意識が変わる可能性があります。このように立場に合わせてメリットを感じてもらうことが重要です。
IT補助金・助成金などの制度を利用する
IT補助金・助成金を利用することで「導入コストがかかる」という原因を解決できます。実際にデジタルツールを活用するにあたって、自治体、民間で補助金・助成金を活用することが可能です。
ただしIT補助金・助成金を使ったとしても、デジタル化を推進する準備として損益計算書(P/L)を作ることが求められます。
「デジタルツールを導入した後、いつごろ損益分岐点を迎えるのか」「5年後にいくらの利益になるのか」などを可視化することで、企業として意思決定しやすくなります。
弊社・ファンリピートでは補助金・助成金の申請から、システム導入をサポートいたします。「自分たちで使える制度がわからない」という方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
現場の負を理解する。ボトムアップの仕組みを作る
「経営者のリテラシー不足」という課題に対しては、現場からの声を上申する方法が有効です。
例えば電子契約はコロナ禍において、一気に進みました。この背景としては、どれだけリモートワークが進んでもバックオフィスの人員だけは契約書の送付のために出社する必要があり、社員満足度が下がっていることがありました。
このように、アナログ業務の負債によって、現場の課題をきちんと経営層に説明し、理解してもらうことでデジタル化が進むこともあります。
デジタル化の成功事例
実際にデジタル化に成功した企業を4つ取り上げます。各社が成功した手法を真似つつ、デジタル化を進めましょう。
RICOH
リコージャパンは、製造業における手書き業務のデジタル化に成功しました。
もともとは安全巡視作業の報告書を手書きで作成していました。この作業には写真の貼付けや転記作業が含まれ、多くの時間と手間がかかっており、作成に180分を要していたといいます。また改善対応の連絡が遅く、対応完了の確認まで1か月かかることがありました。
この課題に対して、リコージャパンはクラウドベースのシステムを導入しました。
安全巡視結果をデジタル化することで、写真やデータをシステム上で簡単に管理・共有できるようになりました。その結果、報告書作成時間を10分まで短縮することに成功しています。
またリアルタイム通知機能を搭載することで、改善対応のスピードが向上し、対応完了の確認期間が1週間に短縮しました。
参考:RICOH「製造業のデジタル化事例」
静岡県 三島市
静岡県三島市では、もともと「校舎修繕依頼」や「生徒の問題行動報告」などが紙で管理されており、作業に多くの時間がかかっていました。また年度初めの家庭環境調査票や保険調査票なども手作業で入力しており、先生の負担になっていました。
その結果、時間がかかるだけでなく、記入漏れや転記ミスが頻発し、さらに業務効率が低下していた、という課題があります。
この課題に対して三島市は株式会社ITSを通して、サイボウズ社のクラウドサービス・kintoneを導入しました。
校舎修繕依頼などをkintoneで管理し、作業時間を約244時間も短縮できています。保護者もオンラインで調査票を提出するようになり、学校がデータをkintone上で管理するようになりました。
またペーパーレス化により、年間1万枚以上の紙を削減でき、リアルタイムでの進捗確認が可能になり、問い合わせが激減したという結果が出ています。
参考:株式会社ITS「三島市「kintoneを活用した学校DX」が話題。アイティエスが技術面を支えています。」
三井不動産レジデンシャルリース
不動産業界はデジタル化が進んでいない業界の一つでもあります。
三井不動産グループの賃貸住宅運営管理会社、三井不動産レジデンシャルリースはもともと紙で賃貸契約書を交わしていました。紙でやり取りをした結果、契約に60分かかることもありました。
しかしGAテクノロジーズの子会社であるイタンジが提供するクラウドサービス「電子契約くん」を導入。クラウド上で入居者が書類を確認、契約を結ぶことが可能となり、契約にかかる時間は1件あたり15分まで短縮できています。
また電子化で年間54万枚の紙を削減することに成功し、無駄な経費を削減することもできています。
参考:IT media ビジネス「契約にかかる時間「60→15分」に短縮も 不動産取引のデジタル化がもたらす効果とは?」
カンドゥー
カンドゥーは子ども向けの職業体験型テーマパークです。開業から10年以上たっても業績は安定せず、撤退寸前でした。その背景にあったのがアナログ業務ゆえの顧客満足度の低下でした。
そこでカンドゥーは徹底したデジタル化を推進。チケットの販売から発券、着券(もぎり)までの手続きをオンライン化したことにより、利用客は集合時間をスマホで確認できるようになりました。1人当たり最大1分30秒の受付時間の短縮につながり、行列は解消されました。
また食事の注文を受け付けるレジが1台しかなく、長蛇の列ができていたレストランエリアへのテコ入れも推進。モバイルオーダーを導入し、席に座りながらスマホで注文できるようにすると、行列が解消し、食事しやすくなりました。
またチケット購入者のデータ、満足度調査、口コミなどを分析し、値上げを実施。そのほかCRM戦略でのメールマーケティングを始めるなど、データベース戦略を進めています。
参考:IT media ビジネス「千葉のキッザニアっぽい施設「カンドゥー」 存続の危機から一転、過去最高の来場者数に どう立て直した?」
デジタル化を成功させるポイント
最後に、デジタル化を成功させるポイントについて紹介します。なんとなくデジタルツールを導入しても定着しません。5つのポイントを意識しながら進めてみてください。
デジタル化の目的・目標を明確にする
まずはデジタルツールを導入する前に「目的」を明確にしましょう。先述した事例でも、必ず「アナログ業務の課題」がありました。この課題に対して目的を設定しましょう。
多くの場合は「業務効率化」が目的になると思います。具体的に「どの部署のどの業務を効率化するのか」を設定してください。
そのうえで「目標(KPI)を設定し、達成すること」が大事です。業務効率化の場合は、基本的に「削減できた人件費」が目標になります。こうした目的は形骸化しないように、デジタルした後に細かく観察し、達成できるよう改善を繰り返しましょう。
自社の強みと弱みを分析する
自社の強みを伸ばし、弱みを補うためにデジタル技術をどう活用するかを起点に考えると、デジタル化すべき部分が明確になります。
自社の強みと弱みを分析する際は、客観的なデータに基づいて行いましょう。主観で判断すると、人によって強み・弱みがブレてしまいます。
つまり前提として、データを蓄積できるツールを導入することが望ましいです。DWH(データウェアハウス)、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)、CRM(顧客関係管理)などのツールを導入することをおすすめします。
そのうえで自社の製品やサービスに対する顧客の価値、競合他社との比較、財務状況など様々な角度から分析してください。
自社の強み、弱みを可視化するうえでSWOT分析というフレームワークを用いることも手段の一つです。フレームワークに書き出すことで、社内に分かりやすく伝えられます。
他社の成功事例を参考にする
デジタル化について、具体的な手段がイメージできない場合は、他社の事例を参考にしましょう。「自社と同じアナログ業務の課題に直面していた企業が、どのようにデジタル化を施工させたのか」を参考にすることでベンチマーク先が決まります。
この際、同じ業界、同じ規模の会社を参考にしましょう。業界によっては、法的な問題などでデジタル化できないかもしれません。また、中小企業が大企業の真似をしても、現実的ではありません。
単に表面的な取り組みをまねるのではなく、その背景にある考え方や戦略を理解することが重要です。
社内の意識改革を進める
先述した通り、デジタル化を阻害する大きな要因は、社内のネガティブなバイアスです。そのため、前提として社内がデジタル化に前向きになれるように、意識改革を進める必要があります。
現場でアナログ業務に苦しむ従業員の一人が課題を感じていても、なかなか意識改革は起きません。本格的にデジタル化を推進するためには、「社内の共通課題」として解決に取り組む必要があります。
「社内でタスクフォースを組む」「デジタル人材の育成をする」「業務プロセスの無駄をリストアップする」などの改革をはじめましょう。そのうえでスケジュールを設定して、デジタル化を進めることが成功のポイントです。
社外の人間に頼る
先述した「社内の意識改革」がなかなか進まない可能性もあります。「デジタル人材が育たない」「タスクフォースが機能しない」「何が課題かがわからない」などの問題が発生した場合は、社外の有識者に相談するのも手段の一つです。
弊社・ファンリピートではお客様と一緒に、社内のアナログ業務の課題を発掘するところから併走いたします。ヒアリングを通して課題を明確化し、解決するためのシステムを開発・納品できますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
今回はデジタル化が遅れる原因と解決策について解説しました。デジタル化が遅れる背景はさまざまです。まずは原因を特定し、合わせて解決策を考えることがデジタル化への第一歩となります。
弊社。ファンリピートではこれまで様々なお客様からデジタル化の相談を承ってきました。ナレッジを駆使して、お客様ごとに最適な提案ができます。まずはヒアリングを通して、課題を特定しますので。お気軽にご相談ください。