システム開発など、自社のリソースで完結できない業務を他社に委託する際には、通常その委託先の会社と業務委託契約を結びます。代表例として、「請負契約」と「委任・準委任契約」の2種類の契約方法があります。
しかし、請負契約に比べて、委任・準委任契約はあまりなじみがない、という方は多いのではないでしょうか?
本稿では、委任・準委任契約、特に準委任契約について、解説します。それぞれの違いを理解した上で最適な契約方法を選べるようになりましょう。
準委任契約の定義と目的
まず、委任契約と準委任契約の違いですが、委任契約は、法律的な業務(たとえば、裁判における弁護人や、不動産取引など)を委任する場合に使われます。すなわち、法律的ではない業務の場合に、準委任契約が使われます。
本稿は主に、コンピュータ・システム開発を委託する場合を想定していますので、以後は準委任契約のみを扱うこととします。
準委任契約の定義
前述の通り、準委任契約は「業務委託契約」の一種です。すなわち、特定の業務を発注者が受注者に委託し、受任者が委託された業務を期間内に遂行することで委任者から報酬を受け取ることを定めた契約のことです。
この契約手法には、民法上2つの形態があります。
1.履行割合型:業務の内容が、データ入力やシステム管理などの労務にあたる場合、時間や工数に応じて報酬が支払われる もの
2.成果完成型:業務がシステム開発など、最終的な成果の納入に対して報酬が支払われるもの
成果完成型の準委任契約は、通常の請負契約と同じでは?と思われた方も多いかもしれません。しかし、両者には大きな違いがあります。次章で詳しくご説明します。
準委任契約とほかの業務委託契約の違い
請負契約との違い
実は、準委任契約と請負契約では、契約の中で取り決められる義務と責任において、大きな違いがあります。それは、以下の5点です。
- 業務の完成義務:請負契約では、受任者が業務を完成させて委任者に成果を納入する義務がありますが、準委任契約では業務を遂行すること自体が目的なので、完成させることは義務ではありません。
- 契約不適合責任:民法改正前には「瑕疵担保責任」と言っていたもので、成果物に欠陥や不具合、数量不足などの不具合を生じさせない、という受任者側の責任のことです。請負契約では、契約不適合責任が発生しますが、準委任契約では発生しません。
- 善管注意義務:受任者は、委任の本旨にしたがって、善良な管理者の注意のもとで業務を遂行しなければいけません。この義務は、準委任契約では発生しますが、請負契約では発生しません。
- 中途解約:準委任契約は、業務の遂行が目的ですので、委任者は業務の必要がなくなれば、いつでも契約を解除することができます。一方、請負契約では、契約を中途解約できるのは、成果が納入される以前に限られます。また、委任者側の都合で一方的に契約を解除する場合、受任者から損害賠償を求められた場合、請負契約ではこれに応じる義務が生じます。
- 再委託:準委任契約では、受任した業務を第三者にさらに委託することは原則として認められません(ただし委任者が承諾すれば、再委託を可能とする契約もあります)。請負契約では、再委託は認められています。
上記のような違いがある理由は、成果物の完成を目的とする請負契約に対して、準委任契約は業務の遂行を目的としているためです。
派遣契約との違い
準委任契約と混同されるほかの契約として、「派遣契約」があります。
派遣契約は、委任者が業務の遂行に必要な要員の派遣を受任者に求めるもので、準委任契約とは明確な違いがあります。それは、指揮命令権の有無です。
派遣契約では、委任者は受任者に対して指揮命令を下すことができますが、準委任契約では、委任者に指揮命令権がありません。
準委任契約のメリットと注意点
では、準委任契約はどのような業務委託に適しているのか、また、契約時に注意すべきことについてご説明します。
「準委任契約」に適した業務
準委任契約は、自社のリソースでは完結できない業務の遂行のため、外部の専門スキルを必要な時期に必要な分だけ導入したい場合に適しています。
例えば、データ入力業務、サーバーセンターのシステム運用・管理・システム開発の設計段階など、さまざまな業務委託で準委任契約がよく使われます。
受任者は会社である場合もありますが、高い専門スキルを持ったフリーランス・エンジニアとの契約にも適している契約です。
委任者側のメリットと注意点
専門スキルを持った人材を自社で確保しようとすると、教育や研修が必要であり、コストと時間がかかります。また雇用契約の性質上、依頼することがなくなったという理由で契約を打ち切るのは現実的ではありません。
これに対して準委任契約は、必要な人材を必要な期間のみ使用することができ、変更に対しても柔軟に対応することができるというメリットがあります。
派遣契約でも同様のメリットはありますが、指揮命令権は委任者にあるので、業務を指示したり進捗を管理するため、委任者側のリソースが必要になります。準委任契約では指揮命令権は委任者側にないため、委任者側の負担がより小さくなります。
しかし、準委任契約においては、受任者側に成果物を完成させる義務はありませんので、完成を求めるような業務(製品開発など)は、請負契約が用いられます。準委任契約でも、成果完成型の契約は可能ですが、受任者側に完成の義務はないことには注意が必要です。
受任者側のメリットと注意点
一方、準委任契約は受任者にとってもメリットがあります。最大の利点は、完成させる義務がないという点です。また、業務時間に対して報酬が支払われるため、成果物が完成しなくても、また中途解約になった場合でも、働いた分の報酬が得られます。
デメリットとしては、業務が終わったときや状況の変化によって必要がなくなった場合など、委任者側からいつでも契約を終了できる、ということです。
急に解約されて困らないように、委任者と業務の内容や進捗について日頃話し合うなどのコミュニケーションを常に心がけましょう。
まとめ
「準委任契約」を締結する際には、後々トラブルにならないように、以下の点に注意が必要です。
- 業務の内容と範囲が明確か?
- 報酬は何に対していくらか、が明確か?諸経費は誰が負担するのか?
- 知的財産権は誰にあるか?
- 損害賠償が発生するのはどんな場合か?
準委任契約は、業務を遂行すること自体が目的であり、成果物の完成を求めない場合に適した契約です。請負契約にするか、準委任契約にするかは業務の内容を十分に精査した上で判断することが重要です。
弊社では、システム開発を受託する際には、お客様の業務内容を十分に理解し、最適な契約形態をお勧め致します。
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