デジタル化は、企業の未来を大きく変える力を持っています。デジタル化を進めることで、効率的な事業運営や新しい価値の創造が可能となり、企業の競争力を強化することが可能です。
一方、デジタル化には多くの悩みや課題が伴うことも事実です。安易にデジタル化を進めると、かえって深刻な問題に発展する可能性もあります。デジタル化を推進する際は、あらかじめ計画を立てて、慎重に行うことが大切です。
本記事では、デジタル化のメリットとデメリットと、デジタル化が成功するための具体的な方法についてご紹介します。デジタル化を検討している方は、基本を理解することから始めていきましょう。
そもそもデジタル化とは?
そもそもデジタル化とは、アナログや物理的なデータをデジタルデータに変換するプロセスを指します。
このプロセスにより、紙の書類や写真、音声、ビデオなどの物理的な情報が、コンピュータで扱えるデジタル形式に変換されます。デジタル化の目的としては、データの保存や検索性の向上、共有を容易にし、業務の効率化を図ることです。
例えば、紙の契約書をスキャンしてPDFファイルに変換することで、物理的なスペースを取らず、安全に保存できる上に、必要な時には即座に検索・閲覧が可能となります。また、デジタルデータは複製が容易であり、バックアップや遠隔地からのアクセスも簡単に行えます。
良く間違う「DX化」との違い
デジタル化とよく混同されやすい概念として、DX(デジタル・トランスフォーメーション)があります。
DXは、単なるリアルデータのデジタルデータへの置き換えではなく、デジタルを活用したビジネスモデルや業務プロセスの抜本的な変革を目指します。
デジタル化が既存の業務を効率化することに焦点を当てているのに対し、DXは企業全体のビジネスモデルを再構築し、新しい市場機会を創出することに重点を置いているのです。
例えば、従来の手作業による在庫管理をIoTセンサーとAIを使った自動化システムに置き換えることで、在庫の最適化と顧客満足度の向上を図ることがDXの一例です。このように、DXは企業の競争力を強化し、持続的な成長を実現するための戦略的な取り組みです。
デジタル化が求められているワケ
デジタル化はなぜ必要なのでしょうか。以下3つの観点から解説していきたいと思います。
- 2025年の崖問題
- 労働人口の減少
- BCPを策定するため
2025年の崖問題
2025年の崖問題とは、日本国内の企業が市場で勝ち抜くためにはDXの推進が必要不可欠であり、DXを推進しなければ業務効率・競争力の低下が避けられないという問題です。また、競争力が低下した場合の想定として、2025年から年間で現在の約3倍、約12兆円もの経済損失が発生すると予測されており深刻な社会問題となっています。
そうした中で、ローコード開発は短期間でのシステム構築や運用コストの削減が可能であり、少ないプログラミング知識でも開発ができるため、2025年の崖を回避する手段として注目されています。
ローコード開発で2025年の崖を回避できる?
ローコード開発とは、コードを多く書かなくてもアプリケーションを開発できるプラットフォームを指します。
ビジュアルエディタやドラッグ&ドロップ機能を利用することで、短期間で開発が可能です。そのため、システムの構築や修正にかかる時間を大幅に短縮できます。また、開発コストの削減にも繋がり、従来の開発手法と比較して、費用対効果が非常に高いことが特徴です。
さらに、ローコード開発は、プログラミング知識が少ない人でも利用できるため、専門の開発者に依存することなく、必要なアプリケーションを迅速に作成することができます。これにより、企業内の各部門が独自のニーズに応じたシステムを構築することが可能です。
また、ローコードプラットフォームはカスタマイズが容易であり、長期的なメンテナンスコストを抑えられるという点も大きなメリットです。
こうした様々な背景から、ローコードを活用することで、2025年の崖問題に対処する有効な手段となり得ます。
労働人口の減少
少子高齢化による労働力の減少もデジタル化を推し進める重要な要因です。デジタル変革により、効率的な業務運営や自動化を進めることで、人手不足を補うことが必要となります。
例えば、AIを活用した自動応答システムは、顧客対応の負担を軽減し、オペレーターの生産性を向上させます。また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入することで、反復的な事務作業を自動化し、従業員がより付加価値の高い業務に集中できるようになります。
BCP(事業継続計画)を策定するため
BCP(事業継続計画)は、災害や緊急事態が発生した際に、企業が被害を最小限に抑え、事業を継続させるための計画です。デジタル化により、重要なデータのバックアップや遠隔地からのアクセスが可能になり、緊急時にも迅速な対応ができます。
例えば、クラウドストレージを利用することで、災害時にもデータの損失を防ぎ、事業の早期復旧が可能となります。
また、デジタル化はリモートワークの推進にも寄与します。緊急事態時に従業員がオフィスに出勤できない場合でも、インターネットを介して自宅から業務を遂行することができます。これにより、事業の中断を最小限に抑えることができます。
デジタル化のメリットを解説
それでは、デジタル化のメリットについて解説していきましょう。以下の5つの観点でご紹介致します。
- アナログから切り替えることで効率化
- 無駄な資源が発生しないことでコスト削減
- 管理がよりしやすく
- 柔軟な働き方ができるように
- BtoBの場合、取引が進めやすくなる
アナログから切り替えることで効率化
人の手で行われていた業務をITツールで置き換えることにより、大幅な効率化が図れます。
例えば、デジタル化されたワークフローシステムを導入すれば、書類の提出から承認までのプロセスを迅速に処理できます。また、デジタルツールを活用することで、ミスの削減や作業のスピードアップが可能となり、全体の業務効率が向上します。
その他、デジタル化のメリットとして、検索性の向上が挙げられます。データのラベリングを行うことで、必要な情報を見つけやすくなります。
無駄な資源が発生しないことでコスト削減
ペーパーレス化により、紙の管理や印刷コストを削減できます。また、Web会議を活用することで、移動費を節約し、時間の有効活用が可能です。
例えば、オンライン会議を利用することで、出張費や交通費を削減し、その分のリソースを他の重要な業務に振り分けることができます。
紙代や移動費に関しては積み重なれば非常に大きなコストとなりますので、デジタル化によるメリットは大きいと言えます。
管理がよりしやすく
デジタル化によってデータの「見える化」が進み、管理が容易になります。例えば、ワークフローシステムや勤怠管理システムを導入することで、リアルタイムでの情報共有が可能となり、業務の属人化を防げます。
また、デジタル化されたデータは、簡単に検索・抽出が可能です。
監査対応など外部に情報を報告する必要がある場合などに、デジタルデータを保有しておくと早期に提出できます。
柔軟な働き方ができるように
リモートワークの導入により、従業員は自宅からでも効率的に業務を行うことができます。これにより、個々の事情に応じた柔軟な働き方が実現します。
例えば、育児や介護などの個人的な理由でオフィスに通えない場合でも、自宅から仕事を続けることができるため、従業員のワークライフバランスが向上します。
近年では、多様な働き方が求められる傾向にありますので、場所や時間の自由度が増すと採用上の魅力にもつながります。
BtoBの場合、取引が進めやすくなる
企業間の取引がデジタル化されていると、取引の効率が向上します。例えば、電子データ交換や電子契約管理システムを活用することで、書類のやり取りに伴うミスや遅延を防ぐことができます。
これにより、取引のスピードが速まり、ビジネスのチャンスを逃さずに済みます。
デジタル化のデメリットを解説
次に、デジタル化のデメリットについても解説します。以下の3つの観点でご紹介します。
- 導入や運用コストがかかる
- セキュリティ対策が必須
- 社内理解を得る必要がある
導入や運用コストがかかる
新しいシステムの導入には初期費用や運用コストがかかります。また、既存のシステムとの互換性や機能性を考慮する必要があります。
特に、中小企業にとっては、初期投資が大きな負担となる場合があります。そのため、費用対効果を十分に検討し、適切な導入計画を立てることが重要です。
ITツールを導入する際は、IT導入補助金を活用することで、負担を減らすことができます。
セキュリティ対策が必須
デジタル化に伴い、データの不正アクセスや改ざんなどのリスクが増加します。そのため、適切なセキュリティ対策が必要です。
例えば、データ暗号化やアクセス制限、セキュリティソフトの導入などが挙げられます。これにより、企業の重要なデータを保護し、情報漏洩やサイバー攻撃のリスクを最小限に抑えることができます。
また、情報漏洩においては社内から持ち出されてしまうということも多分にあるため、社内におけるセキュリティ意識の向上に向けた取り組みも行うとよいでしょう。
社内理解を得る必要がある
デジタル化を進めるには、社内全体の理解と協力が不可欠です。特にITに馴染みのない世代や部門との連携が重要となります。
デジタル化の目的やメリットを明確に伝え、従業員の協力を得るための教育やトレーニングが必要です。例えば、導入前に説明会や研修を行い、従業員の不安を解消することが求められます。
一朝一夕にデジタルが浸透した組織をつくることは難しいため、地道に社内理解を得に行くことが必要でしょう。
デジタル化を実現する際に注意すべきポイント
デジタル化実現に向けて、注意点もあります。以下2つの観点から解説します。
- コスト削減だけを目的にしてはいけない
- 違う視点を持つことが大事
コスト削減だけを目的にしてはいけない
デジタル化の目的は、コスト削減だけでなく、業務の質向上や新たな価値創造に置くべきでしょう。
コスト削減のみを目的としてしまうと、縮小均衡の考え方となり、企業としての成長を実現できません。
コスト削減のために導入したシステムが、結果的に業務を効率化し、さらなるコスト削減に繋がるような戦略が重要です。
例えば、デジタル化によって浮いたコストや時間を、新しいプロジェクトや従業員のスキルアップに投資することで、長期的な成長を目指すことができます。
違う視点を持つことが大事
デジタル化を進める際には、ユーザー視点を忘れずに考えることが重要です。
例えば、デジタルサービスを利用するユーザーの利便性を最優先に考え、プロジェクトを進めることが成功の鍵となります。具体的には、ユーザーがどのようにサービスを利用するのか、その前後のプロセスも含めて考えることで、より使いやすいサービスを提供することができます。
可能であれば、実際の利用者に近い方にテスト段階で触ってもらうことで検証を行うことができると良いでしょう。
デジタル化に成功したデンマークの事例
デンマークはデジタル化先進国として知られ、政府主導で国全体のデジタルインフラを整備しました。
公的サービスのデジタル化や市民のITリテラシー向上を図る施策が功を奏し、効率的かつ透明性の高い行政サービスを実現しています。デジタル化に伴い、住民票のオンライン申請や電子健康記録の導入など、市民生活の利便性が大幅に向上しました。
また、デンマーク政府は、企業のデジタル化を支援するための政策も積極的に推進しており、ビジネス環境の改善にも貢献しています。
デジタル化できる業務例
現在のビジネスシーンでは、あらゆる業務がデジタルに置き換わりつつあります。ここでは、デジタル化ができる業務例をご紹介します。
帳票管理
これまで帳票は紙での管理が主流でしたが、法改正に伴いデジタル化した電子帳票が認められてきています。
デジタルに帳票を管理できるようになることで、検索や閲覧が容易となり、業務効率が大きく改善します。
また、ワークフローシステムを導入することで、各種申請書類の電子化が進み、申請から承認までのプロセスをデジタル上で完結できます。
これにより、書類の紛失リスクが減少し、業務効率を向上できます。
勤怠管理
出退勤管理やシフト・スケジュール管理など、勤怠管理についてもデジタル化が進んでいます。
勤怠管理システムの導入により、出勤・退勤・休憩時間の正確な管理が可能となり、集計作業も自動化されます。これによって、手作業による集計ミスを防ぎ、時間の節約が可能です。
また、シフトやスケジュールの申請と承認に関してもオンライン上で行うことができ、ログも残るため後から見返して確認することもできるようになります。
勤怠管理システムを導入することで、従業員の勤務時間をリアルタイムで把握することができるようになるため、労働時間の管理も効率化されます。
タスク管理
プロジェクト進行におけるタスク管理をデジタル化することで、チームメンバーがリアルタイムで進捗状況を把握できます。
最近では、多くのタスク管理ツールが個人ではなくチームでの利用を想定してつくられており、複数名で利用するにも非常に便利になっています。タスクの割り振りやステータスの可視化を行うことでチームでの仕事を透明化できます。
また、通知やリマインダー機能により、タスクの漏れや偏りを防ぐことが可能です。タスク管理ツールを使用することで、プロジェクトの進行状況を一目で確認でき、チーム全体の生産性が向上します。
顧客対応
これまではオフラインでの対応が中心であった顧客対応についても、デジタル化が浸透してきています。
例えば、電話対応をチャットボットに置き換えることで、オペレーターの負担を軽減し、24時間対応が可能となります。また、AIによる自動応答を導入することで、効率的な顧客サービスが実現します。
その他、顧客からのメール対応をチケット化してチームに割り振って対応するといったことも可能です。チームで顧客サポートを行う場合、誰がどのメールに対応するかが不明瞭になってしまうと、業務のバッティングが生じてしまうことがあります。
顧客からのよくある質問に対して、自動応答システムが即座に回答することで、顧客満足度が向上するでしょう。
デジタル化の進め方
最後に、デジタル化を進めるための手順についてもご紹介します。
以下の4つのステップに分けて解説します。
- 現状の課題と目的を明確化
- ツールの選定と導入を行う
- セキュリティ対策を講じる
- 効果測定と改善対策を行う
現状の課題と目的を明確化
デジタル化を進める際には、まず現状の課題を洗い出し、最終的な目的を明確にすることが重要です。
業務全体を整理し、具体的にどの業務において課題が存在しているのか明確にしましょう。
目的に関しては、単なるコスト削減ではなく、デジタル化によってどのような価値を生み出せたのかにまで注目することができるとより大きな成果に繋がります。
例えば、業務プロセスの効率化や顧客満足度の向上など、明確な成果を目指すことで、デジタル化の成功率が高まるでしょう。
また、設定した課題が実際に解決に至っているのかを最後まで注視し続けることも重要です。
ツールの選定と導入を行う
デジタル化を実現するツールには、いくつかの種類があります。パッケージ製品かクラウドサービスかなど、企業のニーズに合わせて慎重に選定しましょう。
ランニングコストや機能性を考慮し、最適なソリューションを導入します。例えば、クラウドベースのツールを選択することで、初期投資を抑えつつ、スケーラビリティの高いシステムを導入することが可能です。
一度ツールを導入すると、後から他のツールへ移行することは容易ではありません。したがって、初めて導入する際には、必ず複数の製品について資料を取得したり、話を聞いたりして比較検討を行うようにするとよいでしょう。
セキュリティ対策を講じる
デジタル化に伴うリスクを最小限に抑えるため、適切なセキュリティ対策を講じる必要もあります。不正アクセスやデータ漏洩を防ぐための対策が必要不可欠です。
例えば、データの暗号化や二要素認証の導入など、セキュリティ強化策を講じることで、企業の情報資産を保護することができます。
セキュリティ上問題がない製品を選ぶということも重要ですが、社内で情報漏洩に繋がる行為が行われないようにするということも非常に重要です。
そのため、まずは社内でセキュリティに関するイーラーニングを行うなどの社員教育からはじめることも大切でしょう。
効果測定と改善対策を行う
デジタル化の効果を定期的に測定し、フィードバックを収集して改善策を講じます。導入後の運用状況を把握して、継続的な改善を図ることが重要です。
例えば、従業員や顧客からの意見を収集し、システムの使い勝手を向上させるための改良を行うことで、デジタル化の効果を最大限に引き出しましょう。
これまでの業務フローを一切変えずに導入できるツールはまずありません。したがって、デジタル化への移行に際しては、社内のオペレーションもいくつか見直す必要があるはずです。変更を加えたオペレーションにおいて、何らかの問題が発生していないかなどは定期的に見直しを行うようにするとよいでしょう。
まとめ
デジタル化は業務効率化やコスト削減に繋がる重要なプロセスです。しかし、導入にはコストやセキュリティ対策が必要であり、社内の理解と協力も欠かせません。
デジタル化を成功させるため、現状の課題を明確にし、適切なツールを選定して効果的な運用を目指しましょう。また、デジタル化のプロジェクトを進める際には、ユーザー視点を持ち、長期的な視野で計画を立てることが求められます。継続的にデジタル化が維持されるようにするためには努力が必要です。
持続的な成長を遂げて競争力を強化できるよう、メリットデメリットを理解してデジタル化を推進しましょう。