システムを開発するには、非常に多くの工数がかかります。
一つのシステム開発に割いているコストや労力が大きく、収益につなげられていない企業も多いのではないでしょうか。とはいえ、安易な値上げや人件費の削減は避けたいですよね。
システム開発に生成AIを活用できることはご存じでしょうか。活用次第では、開発コストの削減や開発業務の省力化、システムの品質向上など、さまざまなメリットを受けられます。
生成AIの中には、無料で活用できるツールも多くあります。コストをかけずにシステム開発を効率化できれば、収益の向上も期待できるでしょう。
本記事では、生成AIをシステム開発に活用するメリットや手順、注意点を解説します。記事後半では生成AIの導入で労力を30%軽減した例もご紹介します。
生成AIとは
生成AIとは、学習データをもとに、創造的な新しいコンテンツを生成するAIを指します。動画や画像、テキストや音声など、さまざまな形式のコンテンツを生成可能です。
これまでは何かを認識する「認識系AI」が主流でしたが、近年は新たなコンテンツを生成する「生成系AI」が注目を浴びています。
従来AIは、データの整理や分類などの定型化された作業を担っていました。しかし生成AIの登場により、AIはクリエイティブな作業もこなせるようになり、新たなコンテンツを生成できるようになりました。
現在、生成AIは幅広い業界で、業務改善や省力化に活用されています。生成AIの代表格であるChatGPTをすでに活用している方も多いのではないでしょうか。
とはいえ、生成AIは2022年頃から発展した技術のため、有効な活用方法を確立している企業は少ないと考えられます。そのため、生成AIはこれから活用が進められる技術といえるでしょう。
生成AIをシステム開発に活用するメリット
生成AIというと、ChatGPTやStable Diffusionなどの既存のサービスを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、活用方法によっては、自社の新たなサービスやシステム開発に役立てられます。
具体的には、生成AIをシステム開発に活用することで以下のようなメリットを受けられます。
- 開発業務の省力化が図れる
- 開発にかかる時間を短縮できる
- アイディアを生み出してくれる
- 開発の品質を向上できる
続いて、それぞれのメリットを詳しく解説します。
開発業務の省力化が図れる
生成AIは定型作業やクリエイティブな作業を代替できるため、省力化を実現できます。例えば、以下のような作業を代替できます。
- バグ発見
- バグ修正
- 他言語への変換
- 簡単なコーディング
- デザインのたたき台作成
これらの作業に人手を割かずに済むようになるため、人手不足の解消に役立てられるでしょう。上記のような業務をAIで代替できれば、従業員を付加価値業務に充てられるようになります。
このほか、省力化により労働時間を短縮できれば、残業時間の短縮や労働条件の改善につなげられるでしょう。
開発にかかる時間を短縮できる
生成AIは、コード生成やプログラミング支援などの用途でも利用できます。例えば、記述途中のコードを自動で補完したり、最適なコードの提案を受けられたりします。
これを活用すれば、コーディングにかかる時間を短縮でき、エンジニアの負担軽減につなげられるでしょう。
また、開発時間を短縮できれば、柔軟な納期の設定やスケジュールを遵守した開発が容易になります。このように、顧客対応の改善にも役立てられるでしょう。
アイディアを生み出してくれる
生成AIは、学習したデータをもとに新たなアイディアを生み出してくれます。システム開発で行き詰まった際に、打開策を見出してくれるかもしれません。
また、システムの要件を入力すれば、たたき台を作成することも可能です。生成AIを活用すれば、実務経験が少ないエンジニアでも、さまざまな仕様のシステムを開発できるようになるでしょう。
開発の品質を向上できる
生成AIは、コード内のムダや可読性の悪い部分を見つけられます。生成AIによって低品質なコードを修正できれば、よりよいシステムに仕上げられるでしょう。
ムダなコードや可読性の悪い部分は、処理が遅くなったり他者がコードの意図を理解するのが遅くなったりするなど、さまざまな問題を引き起こします。
生成AIにより、シンプルかつわかりやすいコードに仕上げられれば、開発の品質を高められるでしょう。
生成AIを使ったシステム開発の手順
生成AIを使ったシステム開発は、基本的に以下の手順で行われます。
- システム開発の要件定義
- 設計
- コーディング
- テスト・デプロイ
- 保守・管理
Step1.システム開発の要件定義
まず、システム開発の要件を定義します。この段階で生成AIは、要件漏れの確認や、課題解決のための立案などに活用できます。
ただし、要件定義では生成AIに頼りきらず、自社の課題からどのようなシステムが必要なのかを漏れなく考えることが重要です。
Step2.設計
ここでは、具体的な内部設計や外部設計を立てます。外部設計では、デザインや使いやすさを考えますが、画像生成AIを使えば簡単にたたき台を作ることが可能です。
また、内部設計では、Step1で定義した要件を漏れなく満たす機能や動作を組み込むようにしましょう。
Step3.コーディング
設計が終われば、仕様に沿ってコーディングします。ここでは、生成AIのコード生成やプログラミング支援を活用できます。
コーディングは、生成AIを活用することで大幅な省力化や効率化を図れる工程です。生成AIを可能な限り活用し、時間短縮や労力削減に結びつけましょう。
Step4.テスト・デプロイ
コーディングが終われば、テストやデプロイをしてシステムを実際に利用できるようにします。テストで失敗した場合には、生成AIに原因を解析してもらうのも手です。
テストやデプロイが完了すれば、リリースすることにより、実際にシステムを利用できるようになります。
Step5.保守・管理
システムを実装した後も、実用性を維持するためには保守や管理が必要です。保守・管理の段階でも、生成AIを活用できます。
例えば、生成AIにトラブルの状況を伝えることで、保守履歴や学習データから対処方法の提言を受けられます。
生成AIにトラブルのデータを学習させておけば、経験豊富な従業員が現場にいなくても、適切な対処を講じられるようになるでしょう。
生成AIを活用したシステム開発の事例
生成AIを活用して、実際にシステムを開発した企業の例を3つ解説します。
- プログラミング支援の導入で生産性が向上(ZOZO)
- 自動アノテーションにより時間とコストを大幅に削減(大日本住友製薬)
- コード補完の活用により開発の労力を30%削減(Accenture)
プログラミング支援の導入で生産性が向上(ZOZO)
株式会社ZOZOは、プログラミング支援ツールの「GitHub Copilot」を試験的に導入し、生産性の向上を図りました。
同社は、ZOZOTOWNやWEAR、FAANSなど複数の事業を抱えています。
これら全てのサービスでユーザーに多くの価値を届けるには、開発効率を向上させなければならないという課題がありました。
そこで、GitHub Copilotを導入して、コーディングの負担を軽減し、業務効率化を図りました。
その結果、繰り返し作業や検索にかかる時間を大きく低減し、約8割の社員が生産性の向上に役立ったと感じたようです。この結果を受け、同社はGitHub Copilotを全社的に導入することを決めました。
自動アノテーションにより時間とコストを大幅に削減(住友ファーマ)
住友ファーマ株式会社は「Amazon Web Services」を利用し、ラベリング作業の大部分を自動化しました。
基本的に、教師ありの機械学習をするためには、アノテーションによって正解を付与したデータセットが必要です。
しかし、用意しなければならないデータは、オブジェクト一つにつき数千から数万に及ぶこともあります。これらを全て人手で行っていては、かなりの時間とコストがかかってしまいます。
そこで同社は、自動アノテーションの機能を用いることにより、生成AIによるラベリング作業の代替を図りました。
その結果、人手によりラベリングしなければならないデータが一部のみになり、アノテーションにかかる時間とコストの大幅な削減に成功しました。
コード補完の活用により開発の労力を30%削減(アクセンチュア)
アクセンチュア株式会社は、Amazonの「CodeWhisperer」のプログラミング支援を活用することで、コーディングの省力化に成功しました。
CodeWhispererには、高品質なコード提案や脆弱性の検出機能が搭載されています。活用次第では、コーディングの時間短縮や堅牢なシステム構築が実現します。
同社はCodeWhispererを利用することで、開発労力を30%削減することに成功しました。
また、プログラミング支援を活用すれば、不慣れな言語でプログラミングする際にも、効率的にコーディングできます。
実際、同社のエンジニアはCodeWhispererを利用することで、慣れないプログラミング言語でも短時間でシステムを構築できたようです。
生成AIを使ってシステム開発を行う際の注意点
生成AIはシステム開発に有効なツールですが、注意すべきポイントもいくつかあります。
- 情報漏洩に気をつける
- 出力が正しいかを確かめる
- 適切な生成AIを選択する
情報漏洩に気をつける
生成AIでシステムを開発した際には、情報漏洩のリスクがあります。過去には、文章生成AIの代表格であるChatGPTがバグを起こし、チャット履歴が漏洩したことがあります。
また、入力した情報が学習に用いられ、機密情報が漏洩するリスクもあります。生成AIによっては、入力情報を学習させない設定にすることもできますが、リスクがゼロになるわけではありません。
万が一の事態を防止するためにも、社内の機密情報は入力しないようにしましょう。
出力が正しいかを確かめる
生成AIは誤った結果を出力することがあります。実際に、ChatGPTの開発者であるOpenAIは「ChatGPT can make mistakes.」と注意しています。
あくまで生成AIは、学習データから最も適切だと思われる回答を出力しているに過ぎないため、出力結果が正しいとは限りません。
特に信用に関わるデータは、人によるファクトチェックが不可欠といえるでしょう。
これはテキストに限った問題ではありません。画像や動画がプライバシーやコンプライアンスなどの問題に抵触することもあります。
生成AIが出力した結果を安易に信頼せず、誤りがないかを入念に調べるようにしましょう。
適切な生成AIを選択する
現在、さまざまな機能を持った生成AIツールが数多く公開されています。自社のシステム開発に適した生成AIを選択することで、導入効果を高められるでしょう。
とはいえ、生成AIの種類は非常に多いため、適切な選択をするのは非常に困難です。場合によっては、複数の生成AIを組み合わせることが最適解ということもあります。
効果的に生成AIを活用するためには、専門家からアドバイスを受けたほうがよい場合もあります。導入コストがムダにならないよう、最も効果的なシステムを選択できる体制を取るようにしてください。
まとめ|生成AIはシステム開発に活用できる
生成AIをシステム開発に活用することで、コーディングの労力削減やシステムの品質向上が可能になります。情報漏洩や虚偽の回答には注意しなければなりませんが、適切に活用すればさまざまなメリットを受けられるでしょう。
生成AIでシステム開発を効率化できれば、従業員の負担軽減や生産性の向上につなげられます。この機会に、生成AIを自社業務の効率化に役立てられないかを考えてみてはいかがでしょうか。